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本編カレ目線 津軽7話

ノアの保育参観に行った日の夜は、
『赤の徒』の隠れ家になっているというバーの前で張り込みだった。

津軽
そろそろ夜食にしよーかな

百瀬
「···なんですか、その不格好なおにぎりは」

津軽
ちょっとした差し入れ。モモは彼女の手作り弁当?

百瀬
「はい。···あいつ、唐揚げと肉しか入れんなっつってんのに」
「またブロッコリーとプチトマト入れやがって」

モモが憎々し気に弁当の彩りを見ている。

津軽
少しは野菜も食べなさいよ

百瀬
「津軽さんの謎握りには何が入ってんですか」

津軽
んー

津軽
「···あ、これ激辛酢イカだ」
「うめー」

このおにぎりを渡した時のウサを思い出す。

サトコ
「これは、その···っ」
「べっ、別に津軽さんのために作ったんじゃないですからね!」

(あのテンプレツンデレ···ほんと飽きない子だよな)

百瀬
「···それ、そんなにうまいんですか?」

津軽
一口食べる?

百瀬
「···いいです」

ウサのおにぎりの感想を送りながら、今日1日のことを思い出す。

(今日は変な日だったな。これまでの俺の人生に関係のないことばっかだった)

そもそもの始まりはーー

津軽
「幼稚園なんて楽しそうだねー

サトコ
「津軽さんも行きましょうよ」

津軽
···俺もいいの?

サトコ
「え?いいに決まってるじゃないですか」

いとも簡単に俺を “普通” の側へと引き込もうとする。
不意をつくように、こちらが気付かないうちに。
自然過ぎるほど自然に内側に入られると戸惑う。

(これだから善人は嫌なんだ)
( “普通” じゃない世界を知らないで、全部が “普通” だと思って踏み込んでくる)
(こんなのが続いたら···)

津軽
······

彼女の “日常” が俺の “日常” を侵食しそうだ。
俺の欲しかったものを、いつかあの子がくれそうなーー

(夢、見させんなよ)
(俺とお前がいる場所は絶対に交わらないんだから)

それが分かっているのなら、近づかなければいい。
普段は何を食べてるか、ロクに分かりもしないのに。
ウサが作ったおにぎりは、こんなにも美味い。

捜査も公安学校の連中の件も順調に進んでいる。
進んでいるからこそ、どうも気分が晴れなかった。

(調子、悪ぃな)

頭の中で繰り返し再生されるのは、あの時の石神の声。

石神
どんな結果になろうと、あいつはお前を信じ続けるだろう

(段々、冗談だと思えなくなってきた)

“良心の呵責”
という単語が最近、頭にこびりついている。

サトコ
「めずらしいですね。津軽さんが給湯室にいるなんて」

(ウサ···)

今1番会いたくない顔。
でも、来てくれてホッとしている。

サトコ
「···その、考えてることを口にするだけで整理されるって聞いたことがあります」

津軽
ん?

サトコ
「銀室では他班にもあまり話ができないから」
「聞くだけなら、いつでもできますよ」

津軽
んー···

(もう···何なんだよ。石神から、色々聞いてんだろ?)
(俺がろくでもない上司だってことも知ってんだろ?)
(なのに、なんで)

サトコ
「ほら、私の長所は起き上がりこぼし的なところなので、しんどい話でも大丈夫です」
「あと、お腹空いたら言ってください!おにぎり差し入れます!」

津軽
君さ···
······

(ああ、クソ···)

本能に抵抗できない。
この “善意” に縋り、利用したいと思う欲望に。

津軽
······

その肩に顎と乗せると、女の子の匂いがした。

津軽
···君って、バカだよね

サトコ
「失礼ですね!?」

津軽
···じゃなかった。君って人の事ばかりだよね

(バカなのは俺か)
(何やってんだよ、ほんと)

バカ極まれりと思ったのは、バッティングセンターを後にした時。
ウサに過去を喋った。

(あの子は俺の過去を知れば、自分の事のように胸を痛める)
(それが分かってて話した)

牽制もあったのかもしれない、これ以上踏み込んでくるなという。
そして同時にーー
俺の過去と “普通” じゃない “日常” を知っても、傍にいてくれるんじゃないかって。
バカみたいな期待も持っていたのかも、しれない。

to be continued

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