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魅惑の!?恋だおれツアー! 加賀1話

加賀
遅ぇ

サトコ
「······!?」

(な、なぜここに加賀さんが···!)
(うまくごまかせたと思ったのに···!いや、っていうかなんでこのバスだってバレたの!?)

加賀
で?

サトコ
「え···」

加賀
コソコソ、何企んでやがる

サトコ
「た、企んでるなんて···休みの日を有効に使おうと思ってるだけですよ···」

キョドキョドと視線を泳がせる私の後頭部を、加賀さんが思い切り掴む。

サトコ
「痛い!加賀さん、人目があるところでそういうのはやめてください···!」

加賀
座れ

サトコ
「座ります!座りますから···!」

隣の席に腰を下ろすと、ようやく加賀さんの手が頭から離れた。

サトコ
「頭、首からちぎれるかと思った···」

加賀
どうせバレる、いっちょまえに隠し事してんじゃねぇ

サトコ
「うう、すみません···加賀さんも一緒に、って思ったんですけど···最近忙しそうだったので」
「せっかくの休みに、完全な趣味にお付き合いしてもらうのは申し訳ないし」

しょんぼりする私に、加賀さんが怪訝そうな顔になる。

加賀
趣味?

サトコ
「はい。趣味っていうか、なんていうか···」

サトコ
「その···もっと女子力を上げるために応募したツアーというか」

加賀
···ちなみに、なんてツアーだ

サトコ
「え?『現地でCOOK!クッキングツアー☆これでアナタもお料理上手♪』ですよ」

加賀
······

サトコ
「···加賀さんも応募したんですよね?」

加賀
食い倒れツアーじゃねぇのか

サトコ
「食い倒れ??なんでですか?」
「確かに食べ物関係ですけど、そんなにたくさんは作りませんよ」

加賀
······
···歩と黒澤の野郎

サトコ
「あっ···」

低すぎる声に、すべてを察した。

サトコ
「東雲さんに、私と同じツアーを申し込むように命令して」
「東雲さんが黒澤さんに手配させたから、加賀さんは何も知らなかった···とか···?」

加賀
······

サトコ
「そしておふたりは、クッキングツアーだって知ってたのに加賀さんには黙ってた···」
「それどころか、『食い倒れツアーです』って嘘ついた···ってこと、ですか···?」

加賀
···それ以上言うと潰すぞ

サトコ
「潰す!?」
「で、でも加賀さんにしては珍しく、東雲さんと黒澤さんに踊らされましたね」

加賀
黙れ

サトコ
「私は悪くないのに···」

加賀
そもそも、テメェがコソコソしなきゃいい話だ

サトコ
「それはそうなんですけど···女子力を上げたいなんて、今さら恥ずかしくて」

(けどそれも、東雲さんと黒澤さんにはバレてたのか···明日、絶対からかわれるだろうな···)

サトコ
「でも、一緒にツアーに参加しようと思ってくれたのがすごく嬉しいです!」

加賀
テメェを喜ばせるためじゃねぇ

(じゃあ一体何のために···)
(これは、照れ隠しだと思っていいのかな···?めちゃくちゃ不機嫌そうな顔してるけど···)

サトコ
「と、とにかく、せっかくですから一緒にがばりましょう!」

加賀
······

ものすごくめんどくさそうな顔の加賀さんは、見なかったことにした。

(もうバスは走り出しちゃったし、仕方ないよね)
(一人きりだと思ってたけど、加賀さんが一緒なら絶対楽しいツアーになるはず!)

サトコ
「そうだ、お菓子持ってきたんです。食べませんか?」

加賀
遠足か

サトコ
「柔らか~いおまんじゅうもありますよ」

加賀
······

無言で、加賀さんが手を出した。

(よし、お菓子でご機嫌が直るくらいのイライラなら、このあとどうにかなる···!)

水筒に入ったお茶を加賀さんに渡して、楽しいクッキングツアーはスタートしたのだった。

まずやってきたのは、イチゴ狩りが楽しめるビニールハウスだった。

サトコ
「うーん、空気が美味しいですね!」
「それに、海沿いの街だからほのかに海風の香りもしますしー···」

振り返ると、加賀さんは革ジャンのまま採ったイチゴを頬張っていた。

サトコ
「···食べちゃうんですか?」

加賀
あ?

サトコ
「い、いえ···ここで採ったイチゴ、あとで使うんですよ」

加賀
俺は食う。テメェは採れ

サトコ
「そんな!私も食べたい!」

(それにしても、革ジャンでイチゴ狩り···なんてミスマッチ···)
(でも···それがいい!妙にかわいい!)

サトコ
「イチゴ、美味しいですか?」

加賀
まあまあだ

サトコ
「どれどれ、私も···」
「···ん!このイチゴ、柔らかい!」

加賀
熟してんだろ

(そうか、だから柔らかいもの好きの加賀さんの心に刺さったんだな)
(甘くておいしいけど、それ以上に···)

採っては食べ、採っては食べている加賀さんに、思わず見惚れてしまう。

(なんか、子どもみたい···うう、ずっと見ていられる···!)
(それに、イチゴも美味しい···はあ、幸せ!)

加賀
食ってねぇでさっさと採れ

サトコ
「加賀さんだって食べてるのに···」
「でも、そうですよね!このあとのクッキングの為にもいっぱい収穫しないと!」

思いがけず加賀さんとイチゴ狩りを楽しむことができて、ご満悦の私だった。

大量にイチゴを収穫した後、再びバスに乗り込み···
次にやって来たのは、養鶏場だった。

サトコ
「よし!じゃあやりますか!」

加賀
···屠殺(とさつ)か?

サトコ
「屠殺!?」


「キエーーー!」

サトコ
「ほら、加賀さんが物騒なこと言うから、鶏がざわついてるじゃないですか···!」

加賀
違うのか

サトコ
「違います。卵ですよ!卵を収穫するんです!」

加賀
ああ···

(ちょっとがっかりしてる···?)

見なかったことにして、加賀さんと共にせっせと卵を収穫する。
今回はイチゴ狩りと違いその場で食べれないので、加賀さんもちゃんと収穫してくれた。

サトコ
「なんか···卵かけご飯食べたくなりますね」

加賀
······

サトコ
「すみません···でもほら、こんなに新鮮な卵をかけたら、絶対美味しいですよ」

スタッフ
「大変だ!鶏が逃げた!」

サトコ
「え!?」

どうやら一緒に参加していた子どもが檻を開けてしまったらしく、数羽が逃げ出すのが見えた。

サトコ
「た、大変!でも鶏なんてどうやって捕まえていいか···」

加賀
待っとけ

サトコ
「えっ?」

自分が収穫した卵のカゴを私に渡すと、加賀さんは迷わず鶏を追いかけた。


「キエーーー!」

加賀
おとなしくしやがれ

スタッフ
「だ、大丈夫ですか!?」

加賀
問題ねぇ

ジタバタと暴れる鶏を、加賀さんは難なく捕まえる。

参加者1
「す、すごい···あの人、プロ···?」

参加者2
「でも、なんていうか···鶏の捕まえ方が···」

両手に鶏の脚を掴んで、加賀さんがゆっくりと戻って来た。

サトコ
「阿修羅···!」

加賀
あ゛?

サトコ
「な、なんでもないです···!」

スタッフ
「すみません!ありがとうございました!」

(両手に鶏を捕まえた加賀さん、いろんな意味で様になりすぎて···)
(もう、鬼···?悪魔···?いろんなものが混ざった、最強の存在みたいな···)

加賀
おい、卵

サトコ
「は、はい!鶏の捕獲、お疲れさまでした!」

加賀
何ビビってんだ

サトコ
「だって、怖すぎますよ···私、初めて鶏に同情しました···」

再び卵の収穫に戻り、それを終えた私たちはバスに戻り···

最終的に、収穫した材料を持って料理教室へとたどり着いた。

加賀
······

サトコ
「······」

(加賀さん、エプロン姿めちゃくちゃ似合う···)

他の参加者も同じことを考えているのか、加賀さんは完全に注目の的だ。

加賀
···チッ

サトコ
「あっ、エプロン外しちゃダメですよ!」

加賀
やってられるか

サトコ
「でも、料理するんですから、エプロンつけないと」
「せっかく頑張って収穫してきたんですから、最後まで頑張りましょう!」

先生
「はーいみなさん、お疲れさまでした!ではこれからスイーツ作りを始めまーす」

始まってしまったので、加賀さんも渋々従う。
でもその身体から、私だけわかる不機嫌オーラをビシビシ感じた。

(いや、でも加賀さんもアレを見ればきっと機嫌が直るはず···!)
(ただ、その前に作るものが色々と問題なんだけど···)

先生
「ではまず、収穫してきた卵でプリンを作ります!」

加賀
ぁあ゛?

先生
「ヒッ!すみません!」

サトコ
「か、加賀さん!メニューは最初から決まってたので···!」
「それにほら、プリンも自分で作れば美味しく感じますよ!」

加賀
···チッ

先生
「そ、それでは作り方を説明しますね~」

加賀さんの顔色を窺いながら、先生が黒板に書かれたレシピを説明してくれる。
一緒に取り組みながらも、加賀さんの眉間にはずっと深い皺が刻まれ続けていた。

サトコ
「···もしかして、石神さんのこと思い出してます?」

加賀
それしかねぇだろ

サトコ
「やっぱり···」

加賀
なんで休みの日にまで、サイボーグ眼鏡野郎のことなんざ思い出さなきゃならねぇ

先生
「材料はこし終えましたか~?ではゆっくりと、容器にプリンを流し込みまーす」

加賀
···容器ってのはどれだ

サトコ
「えっと···こ、これです」

ハート型の容器を渡すと、加賀さんのこめかみがピクリと動いた。

サトコ
「し、仕方ないんですよ!女子力を上げるって言うツアーですから···!」
「こういう可愛いのを見ると、テンション上がるじゃないですか」

加賀
くだらねぇ

呆れる加賀さんと一緒に、容器の3分の2くらいまでプリン液を流し込む。

加賀
······

サトコ
「そんなに憎まなくても···プリンに罪はないですから···」

(きっと、プリン自体が石神さんに見えてるんだろうな···)
(ああ···どうか加賀さんが我慢の限界を迎えて容器を破壊しませんように···)

さすがに耐えたのか、加賀さんも無事にプリン液を流し込み終える。

先生
「はい、では容器に蓋をして蒸しまーす」
「その間に、もうひとつのスイーツを作りましょうね」

サトコ
「来た···!」

加賀
あ?

(私がこのツアーに参加した最大の理由···!)
(女子力を上げるのが目的だけど、でもそれ以上に···!)

そう、次に作るスイーツというのはーー

to be continued

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