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本編③(前編) 津軽7話



会議でやらかしてしまった私は津軽さんに屋上へと連行された。

津軽
ったく

腕を組んだ津軽さんにため息を吐かれる。

サトコ
「···申し訳ありませんでした」

津軽
ほんとに反省してるの?

サトコ
「それは···」

(ノアを守りたいと思った気持ちを悪いとは思ってない···)

<選択してください>

反省してると言う

(でも反省してるって答えるのが、部下の正しい答えだ)

サトコ
「反省しています」

津軽
ウソつく時、まぶたがピクピクするって言わなかったっけ?

サトコ
「!」

まぶたを慌てて押さえると、小さく笑われる。

津軽
ほんとのこと言いなよ

本当の気持ちを言う

ここで津軽さん相手に取り繕った答えもできない。
取り繕うのは恋心だけで十分だ。

サトコ
「会議中に···しかも銀室長に勝手な発言をしたことは反省しています」
「個人的な感情で反対したことも」

津軽
だけど···って言いたそうだね

間違っていたのか聞く

サトコ
「私は···間違っていたのでしょうか?」

津軽
まあ、公安刑事としては失格。津軽班としても落第

サトコ
「···ですよね」

津軽
でも全部わかってて、その上で言ったんだろ?

私を見るその目に責めるような色は見えなかった。

サトコ
「···はい」

サトコ
「···ノアを使い捨ての駒になんてできません」
「それにして意見したことは···後悔していません」
「······申し訳ありません」

津軽
······

しばしの沈黙が落ちる。
厳しい叱りの声がくるだろうかと身構えていると。

津軽
ヘマウサギ

サトコ
「え?」

津軽
ま、気持ちは分かるけどね

思ったよりも穏やかな声が聞こえてきて顔を上げた。

津軽
俺も家族のフリなんてできるか分かんないし

サトコ
「家族のフリ?」

津軽
君のせいで通達できなかったけど、ノアを使う件
俺と君とノアで疑似家族をつくるんだよ。遊園地の時みたいに

サトコ
「そ、そうだったんですか?」

津軽
ノアのパパママ呼びが仕事で役立つなんてね

(そりゃノアと一緒の時は家族ごっこやることもあったけど)
(捜査のための疑似家族···)

さっきの『家族のフリなんてできるかわかんないし』という言葉の意味にやっと気が付く。

(津軽さんは子どもの頃に家族をなくしているから···だから、だよね···)

3人の中で家族団らんが当たり前なのは私だけなのかもしれない。

津軽
とにかく決まったことだから
私情は捨てて、とっとと仕事しな

サトコ
「はい···」

笑顔での圧。
3人での捜査なら、きっと津軽さんもノアのことは気にかけてくれるだろうと。
それだけが唯一の救いだった。



それから数日後、会議室に招集された。

サトコ
「え」

(私だけ?)

会議室には誰もいない。

(まさか、この間の発言で何か処分が下される···?)

静寂の中、緊張と共に誰かがくるのを待っていると。

ノア
「おねえちゃん!」

サトコ
「ノア!?···と、百瀬さん!?」

百瀬
「髪引っ張んなっつってんだろ!」

百瀬さんに肩車されたノアが会議室に入ってきた。

ノア
「見て見て、素粒子ロボ・モモリオンだよ!」

サトコ
「モモリオン···」

百瀬
「だせぇ名前つけんな」

百瀬さんの頭の上でノアはキャッキャしていて、なぜか百瀬さんもまんざらではない。

(意外と子ども扱いが上手い?いや、ノアが百瀬さんの扱いが上手い!?)
(···こうしてると兄弟みたいだな)

サトコ
「捜査の件で来たんですよね···」

重くなる私の気持ちとは反対に、ノアは弾けるような笑みを浮かべる。

ノア
「おじいちゃんがね、新しいお家を買ってくれるんだって!」

サトコ
「おじいちゃん?」

ノア
「しろがねのおじいちゃん!」

サトコ
「!?」

(銀の···おじいちゃん···!?)
(いや、津軽さんがパパなら、銀さんがおじいちゃんというのもわかるけど!)

サトコ
「それ、銀さんは···」


「······」

サトコ
「ひっ」

会議室に現れた銀さんの背からゴゴゴッという効果音でもしてきそうだ。

ノア
「ね?おじいちゃん!」


「······」

(み、眉間のシワが大変なことに!)

サトコ
「あの、ノア···」


「捜査用に住居を用意した」

ノア
「ほら、お家買ってくれたって!」


「買ったわけではない」

ノア
「でも、ノアたちのお家でしょ?」


「捜査中だけだ」

ノア
「でも、わたしたちのお家!おじいちゃんも遊びに来てね!」


「············」

ノア
「やったー!」


「何も言ってない」

ノア
「ちんもくは肯定っておじさんが言ってたもん」

(な、なんか銀さんが押されてる?)

ノアのニッコニコの笑顔は銀さんの押し殺すような圧さえ相殺しているように見えた。

(ノア、恐ろしい子···!)

ノア
「今のお家も好きだけど」
「おねえちゃんとおじさんとちょっとでもいっしょに暮らせるのうれしい!」

サトコ
「わ、私も嬉しいよ」


「津軽が戻り次第、詳細を説明する」

ノア
「それまでにらめっこしよ」


「しない」

ノア
「なぞなぞがいいの?」

百瀬
「おい、俺が遊んでやってんだろ」

ノア
「おじいちゃんとも遊びたいー!」


「······」

(確かに、ノアは無敵かも···)

無邪気に笑う顔を見れば、こちらもつい顔が緩んだ。



会議室で説明を受け、ノアをロビーまで送ってから課に戻ってくる。

サトコ
「週末には捜査用の家に引っ越さなきゃいけないんですよね」

津軽
お引越し頑張らないとね

サトコ
「でも、持って行くのって服とか当座使うものだけでいいんですよね?」

津軽
ウサちゃん、テーブルもイスもない暮らしをノアにさせる気?

サトコ
「家具は用意してもらえるんじゃないんですか!?」

津軽
長くて数週間の捜査のために、そこまで予算もらえるわけないでしょ

サトコ
「ってことは本気の引っ越し···?」

津軽
そういうこと。あ、業者もナシだからね。足がつくから

サトコ
「それって、全部自分でやるっていう···いやいや、冷蔵庫とか洗濯機とか無理ですよ!」

津軽
だからこそほら···

サトコ
「ほら?」

津軽
ゴリラパワー発揮して

サトコ
「ゴリラは津軽さんじゃないですか!」

津軽
え?君が入ってきた時ゴリラって噂されてたの知らないの?

サトコ
「ちょこちょこ聞いたことは···じゃなくて」
「津軽さんも引っ越すんですからね?」

津軽
ウサちゃんちの家具で十分だよ

サトコ
「そんなのずるいです!」

面倒なことは丸投げしてきた津軽さんに途方に暮れる。

(業者も使わずに引っ越しって···)

後藤
「手伝うか?」

サトコ
「い、いいんですか?」

後藤
「その手の作業は何度も経験がある。黒澤、人手を集められるか?」

黒澤
「他ならぬサトコさんのためなら、この黒澤透、人脈を駆使します!」

後藤
「土曜の朝でいいんだな?」

サトコ
「はい!ありがとうございます~っ···!」

“地獄に仏” 、 “公安課に後藤さん” だと手を合わせると。
何故か横に津軽さんが戻ってくる。

津軽
え?じゃあ俺も行くしかないじゃん

サトコ
「え、なんでですか?役に立つ気ないのに?」

津軽
引っ越しのダンボールに入れられたいって?

サトコ
「ナンデモアリマセン···」

津軽
ってことで、モモ。土曜の朝、集合ね

百瀬
「津軽さんの荷物なら運びます」

言外に私の荷物は運ばないという百瀬さんの参加も決まり。
引っ越しまで、あと3日ーー

to be continued

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