カテゴリー

あ、クリスマスは愛のため中止です 颯馬カレ目線



【教官室】

颯馬
つまりそれは、公安学校の意義を問う···ということですね

教官たちが揃う会議で、警視庁から下りてきた案件について話し合う。

難波
端的に言えばそういうことだ

加賀
そりゃ、その案件を任せられる奴は相当なプレッシャーだな

後藤
公安の沽券にかかわる任務ですからね

東雲
で、それは誰にまかせるんですか?

石神
それなんだが、氷川サトコが適任と考えている

(真っ先にその名が出るとは···)

予想はしていたものの、やはり嬉しい。

(俺が口にするまでもなくサトコの名前が出るということは)
(それだけ彼女が評価されている証拠だ)

後藤
確かに、氷川なら気力、知力、体力のバランスが取れている

加賀
クズにたいして期待はしてねぇがな

石神
どうだ?颯馬

颯馬
はい。私からも推薦します

難波
よし、じゃあ氷川は決まりだな

他にサトコの同期の千葉大輔と佐々木鳴子と、計3名が選出された。

難波
颯馬、彼らのサポート役も兼ねてこの件はお前に一任する

颯馬
承知しました

(これまで補佐官として俺を支えてきてくれた彼女のために···)
(今回は俺がしっかりと彼女をサポートしよう)

黒澤
周介さん、今年のクリスマスはお預けになりそうですね~

(そうか···護衛当日は12月25日だったな···)

一瞬、サトコの笑顔が脳裏に浮かぶ。

(今年は2人で過ごせないか)
(···俺がこんなことを気にするとは)

颯馬
我々の仕事にクリスマスも正月も関係ありませんから

黒澤にそう答えつつ、内心苦笑いの俺だった。



【食堂】

数日後――
今回の総理護衛の警備にあたる広末くんと藤咲くんを連れて食堂近くを通りかかる。
すると、なにか話し合っているサトコたちの声が聞こえた。

(何をヒソヒソ話しているかと思えば···)

今回の急な任務の理由をあれこれ詮索しているらしい。

颯馬
余計な詮索は禁物です

サトコ
「···!」

鳴子
「そ、颯馬教官!」

千葉
「お、お疲れさまです!」

噂話に花を咲かせてる彼らの背後で囁くと、3人が同時に振り返って目を丸くした。

(まったく、こういう所はまだまだ学生気分ですね···)

颯馬
みなさんに紹介したい方々をお連れしました
こちら、警視庁警備部警護課の広末そらさんと藤咲瑞貴さんです

そら
「どうも~」

瑞貴
「お疲れさまです」

サトコ
「!?」

(ん···?)

藤咲くんが挨拶した途端に、サトコの目が輝いた気がした。
何やらそわそわした様子で、佐々木さんと囁き合っている。

(何を話しているんだ?)

気になっていると、食堂内がやけに騒がしくなってきた。
周りを見回すと、訓練生たちの視線が藤咲瑞貴に集中している。

(そういえば、彼は元アイドルでしたね···)

サトコの反応と食堂内の騒ぎは、どうやら藤咲瑞貴のせいらしい。
つい捜査対象を見るような目でサトコの反応を追ってしまう。

(悪いクセだな···)

こっそり自嘲しつつも様子を窺っていると――

サトコ
「氷川サトコです、よろしくお願いいたします!」

瑞貴
「こちらこそ、よろしくね」

サトコ
「!!」

藤咲くんに微笑まれ、サトコはその頬を僅かに上気させた。

(なるほど、サトコも彼のファンだったのか)

瑞貴
「何かあればいつでも相談してください」

サトコ
「はい、ありがとうございます」

(ファンとはいえ、俺以外にそのような笑顔を向けるなんて)

颯馬
では、期待していますよ

面白くない気持ちを微笑んで押し殺し、サトコたちの前から立ち去った。



【廊下】

そら
「では、オレたちはこれで」

颯馬
わざわざご足労いただきありがとうございました

瑞貴
「こちらこそ。先程の訓練生の皆さんにもよろしくお伝えください」

2人は爽やかな笑みを残して帰って行った。

(それにしても藤咲瑞貴の爽やかさといったら···)

思わず感心してしまいそうになったその時、ふと昔のことを思いだした。

(そういえば昔、彼に似ていると言われたこともあったが···あの爽やかさは俺にはない)
(いや、でもまさかサトコは···?)

ふとある疑念が湧く。

(彼に似ているからサトコは俺と······なんてことはないだろうが···)

自分でも情けなくなるようなことを思っていると、ばったりサトコと会ってしまった。

サトコ
「お疲れさまです。SPのお二人は···」

颯馬
今別れたところです

彼女の心を探るように一瞥し、つい余計なことを言いたくなる。

颯馬
貴女も藤咲くんに興味が?

サトコ
「えっ···」

颯馬
彼に会ってとても感激している様子でしたので

サトコ
「······」

彼女の目に動揺の色が浮かぶ。

(···優しく微笑んだつもりだったが、怖がらせてしまったか?)

サトコ
「あくまでアイドル時代の話で···ファン心理と恋愛感情は全く別物ですから!」

颯馬
···なるほど

(ふふ、そんなにムキになって···可愛いな)

怒らせて楽しんでいるわけではないが、
彼女の真っ直ぐさがより愛おしく感じられる俺だった。


【ホテル部屋】

千葉
「そ、総理に女装させるって!?」

鳴子
「サトコ、本気で言ってるの!?」

サトコ
「うん。この雑誌を見てピンときたの」

ホテルに戻ると、サトコは買ってきた雑誌を差し出した。

颯馬
なるほど、そういうことでしたか

(女装なんて案は、俺には思いつかなかった)

サトコならではの柔軟な発想に、彼女の成長を垣間見る。

(総理がそんなことするわけはないと見せかけ、敢えてそこを突く、か···)
(まさに逆転の発想だな)

頼もしい思い出サトコを見守っていると、その顔はすっかり仕事の顔になっている。

(今日がクリスマスだなんてことは、頭の片隅にもなさそうだ)
(俺の方が女々しいのかもしれないな···)

この任務が決まった際、一瞬でもクリスマスを気にした自分を思い出し自嘲する。

瑞貴
「氷川さん、頑張ってください」

サトコ
「は、はい···!」

(···できればそこの仕事の顔で流して欲しかったが)

藤咲くんの応援にほんのりと頬を染めるサトコに、
またもほの暗い気持ちが揺らめいた。

(とはいえ···彼女が喜ぶなら仕方ないか···)

【廊下】

颯馬
藤咲くん

サトコの案で行くことが決まり、いったん部屋を出た俺は彼を呼び止めた。

瑞貴
「はい、何でしょうか?」

颯馬
このようなときに大変申し訳ないのですが···

瑞貴
「?」

(···サトコの笑顔のためだ)

つまらないプライドを捨て、俺は彼にあることをお願いした。


【教会】

総理を無事式場へ送り届け、そのチャペル内にサトコの手を引いて忍び込んだ。

神父
「健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も···」

柔らかな夕陽に包まれるチャペルに、神父の厳かな声が静かに響く。
隣でその様子を見つめるサトコは、目を潤ませている。

(そんな純粋な目をして···)

感動している様子の姿が愛おしくて、思わずつないでいる手にそっと力を込めた。

サトコ
「···?」

(サトコ···)

神父
「貴方は、新婦を生涯愛することを誓いますか?」

颯馬
···はい、誓います

自然と答えてしまった俺を、サトコは潤んだ目で見つめている。
そのまま神父の次の言葉が始まる。

神父
「貴女は、新郎を生涯愛することを誓いますか?」

サトコ
「は···」

(···そこまで)

サトコ
「んっ···」

開きかけた彼女の唇を咄嗟にキスで塞いだ。

(まだ言わせない。楽しみは本番まで取っておかないと···)

ゆっくりと離れると、サトコは頬を真っ赤にして俺を見つめる。

颯馬
仕事や藤咲くんに夢中な姿も好きですが、私のことも思い出していただけましたか?
あまり私以外の男を見ないように

サトコ
「···!」

讃美歌とオルガンの音に紛れてそっと問いかけると、サトコは更に顔を赤くした。

(俺も随分と大胆なことを···)
(もしかしたら末広くんたちに見られたかもしれないが)
(まあそれはそれで良い牽制になるだろう)

密かにニヤリと笑い、ふと思う。

(さて、藤咲くんにお願いしたサインは、いつ渡そうか···?)

喜ぶサトコの顔を想像しながら、その時を待つ俺だった。

Happy End



シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする