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出逢い編 颯馬 シークレット3

Episode 10.5
「夢心地な時間」

(もうちょっとしたら、鳴子たちとの飲み会か)
(とりあえず、全員査定に通ってよかった)

サトコ
「······」

私は時計を見て、また教科書に視線を落とす。

(査定には通ったけど、颯馬教官の役に立てるようになるためには、もっと勉強しなきゃ)

その時、ふっと教科書に影が差す。

颯馬
お疲れさまです

見上げると颯馬教官が微笑んでいた。

サトコ
「あ、お疲れさまです!」

教官は私の肩にポンッと手を置いてこう言った。

颯馬
サトコさん少し、夕陽を見ませんか?

向かった先は屋上だった。
夕陽が広がり、私と颯馬教官の影が長く伸びている。

颯馬
あそこに座りましょう

颯馬教官はそう言うと、近くのベンチへ向かう。

(空···茜色だ···綺麗だな···)
(こんな風に空を眺めたのは何年ぶりだろう)

少しずつ流れる雲を見て、ずっとこんな感覚を忘れていたことに気が付いた。

(交番勤務の時も、この学校に入ってからも)
(毎日、いろんなことに追われてたから···)

颯馬
剣道は気持ちの焦りがすぐに出ますよね?

颯馬教官は流れる雲を見て、目を細めた。

サトコ
「はい。焦ったり余計なことを考えると、すぐに結果に出ます」

颯馬
日常でも同じですよ。気持ちに余裕がなくなると、ミスが生じます
そのためにも、毎日何かに追われるだけじゃなくて、こうやって空を見る時間も大切です
気持ちのゆとりって大事なんですよ?
これも公安の大事な仕事ですから

サトコ
「はい···」

(颯馬教官。それを言いに来てくれたんだ···)
(最近、毎日忙しすぎて、何も見る余裕がなかったから···)

颯馬
私も昔頑張りすぎてた時期がありました
休息を全くとっていないときは、とんでもないミスをしたりしましたよ

サトコ
「颯馬教官でもミスしたりするんですね」

颯馬
もちろんです。私も人ですからね
でもいざという時に市民を守るため
常に自分の健康状態を管理して、ミスがないように徹底してます

(さすが颯馬教官。普段から厳しく自分を管理してるんだ)

颯馬
今回、結構堪えましたか?

サトコ
「はい、正直少し。その場でとにかく必死でした」

颯馬
初めはみんな誰でもそうですよ

颯馬教官はそう言って笑う。

サトコ
「颯馬教官もですか?」

颯馬
もちろんです。初めは堪えましたし、何よりも必死で周りが見えなかったものですよ
サトコさんはよくやってると思いますよ

颯馬教官の真剣なまなざしが突き刺さる。
もう夕陽が最後の光を放っていた。

颯馬
······

颯馬教官は、急に私に顔を近づけてきた。

(えっ······か、顔が)

唇が触れそうなほどに顔が近くなった時、颯馬教官は私の顔を両手で包んだ。

サトコ
「え?···教官」

颯馬
付いてますよ

教官は咲いていた花の一枚を手にしている。

(あ、風で···)

思わず赤くなって、目を伏せてしまった。

颯馬
フフフ、サトコさんは本当に素直な人ですね

そう言って花びらを風に飛ばした。
ひらひらと舞い、夕方の風に乗って消えて行った。

颯馬
そろそろ行きましょうか。風が強くなってきました

颯馬教官は私の方に手を差し伸べて、にっこり笑う。

サトコ
「······」

その手を握ると、どこか安心する温もりが伝わる。

(あったかい···)

颯馬
せっかくの息抜きなのに、真面目な話をしてしまいましたね

サトコ
「いえ、とても気持ちが楽になりました。ありがとうございます」

立ち上がると、遠くから風に乗って鳴子の声がする。

佐々木鳴子
「サトコどこ~!そろそろ飲み会に行くよ~」

サトコ
「颯馬教官、それでは失礼します」

颯馬
はい、楽しんできてください

颯馬教官は···微笑みながらじっとこちらを見ている。

サトコ
「どうかしましたか?」

颯馬
いえ
ではまた明日もよろしくお願いします

(颯馬教官は笑って手を振ってくれた···)

これからも颯馬教官のそばで頑張って行こう。
そう、胸に誓ったーー

Secret End

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