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欲しがりカレシのキスの場所 石神1話

女磨きに目覚めた私が向かった先は、警察庁からそう遠くない場所に位置するジム。

(目指すは『パシフィック8』···)
(格好いい女になるためには、基礎を鍛えるのが大事なはず!)
(トレーニング中は食事やサプリにも気を遣うし、一石二鳥だよね!)

佐々木鳴子
「サトコ、本当にここ通うの?もう十分鍛えてるように見えるけど···」

サトコ
「でも配属されてからは、ジムに行く時間もとれてないから」
「そろそろ鍛え直した方がいいかなって思ってたんだよね」

ジムの体験には鳴子も一緒に来てくれていた。

サトコ
「仕事を言い訳に女を忘れちゃいけない···鳴子の言葉で目が覚めたよ!」

佐々木鳴子
「ヘアサロンとかネイルとか、別の方法もあると思うけど···」
「まあ、サトコが試したいなら頑張ってみようか」

インストラクター
「体験レッスンへ、ようこそ~。シェイプアップで身体も心も鍛えましょう!」

サトコ
「はい!」

インストラクター
「水泳、ヨガ、ピラティス、マシンを使ったトレーニングまで」
「多様なコースをご用意しております」

佐々木鳴子
「私、ピラティスやってみたかったんだ!」

サトコ
「じゃあ、私は水泳からやってみようかな」

インストラクター
「では、ピラティスのスタジオはこちらです。プールは奥になりますので」
「レンタルウェアはフロントでお受け取り下さい!」

佐々木鳴子
「じゃ、あとでね!」

サトコ
「うん!」

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プールで軽く泳ぐと、女性のトレーナーさんがやって来て身体を見てくれる。

トレーナー
「基本的に鍛えられていて、素晴らしいですね!」
「あとはひとつひとつの筋肉のかたちを整えていくと、もっと良くなりますよ!」

サトコ
「ひとつひとつの筋肉のかたち···ですか?」

トレーナー
「肉体美で大事なのはバランスです!美しくバランスのいい筋肉を作りましょう!」

サトコ
「はい!」

(筋肉のかたちまで考えたことなんてなかった···)
(これでスタイルも良くなるかも!)

2週間の体験期間が半分ほど過ぎた頃。
給湯室でお茶を淹れていると。

東雲
···何かここ、狭くない?

サトコ
「え?そうですか?特に物増えてないと思いますけど」

東雲
いや、物じゃなくてさ···

東雲さんは私が沸かしたお湯で先にお茶を淹れると、意味深な視線を残して去っていく。

(な、なに?というか、ここ狭くなったかな···)

大柄な男性が2、3人集まれば確かに狭いが、私と東雲さんで狭い···というほどではない。
別の何かが言いたかったのかと、お茶を沸かし直しながら考えていると。

黒澤
わあ、サトコさん、鍛えてますねー!

サトコ
「え、な、何ですか、急に···」

黒澤
見違えてますよ。ジム通ってるんですか?

サトコ
「実は今、体験レッスンに通っていて···」

(ぱっと見でわかるほど、効果が出てるんだ?)
(筋肉のかたちが整ってきてるのかも!)

黒澤
一目でわかりましたよ。肩や身体の厚みが、ぐっと増しましたね

サトコ
「え、厚み···?」

言われて、自分の身体を見下ろしてみる。
確かに肩の辺りが少しパツパツ気味になっている。

(さっき東雲さんが狭いって言ったのは、私が幅をとってるってこと!?)
(整えるくらいの気持ちでいたけど、膨らんでる!?)

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(言われてみれば、スーツがきつい気がしてきた···)
(バランスを整えるために1週間通っただけなのに!)

サトコ
「どうしよう···」

(このままだと、ゴリラ女のレッテルを貼られてしまう!)
(鍛えた身体は何としても隠さねば!)

石神
どうした?何かあったのか

サトコ
「!」

耳に馴染む涼やかな声に顔を上げた時には、秀樹さんが目の前に立っていた。

サトコ
「い、石神さん、お疲れさまです!」

石神
ああ。それで、何があった

サトコ
「何かというのは···」

石神
俺が前から歩いてくるのも気付いていなかっただろう
···俺には言えないことか

言外に捜査関係で悩んでいるのかと聞かれ、大きく首を振る。

サトコ
「私でしたら大丈夫です。今は潜入捜査明けで、特に事件も抱えていないので」

石神
···そうか

(秀樹さんには)
(この膨らんだ身体に気付かれるわけにはいかない!)

サトコ
「では、私はこれで···」

石神
待て

サトコ
「!」

そそくさと擦れ違おうとすると、ぐっと二の腕をつかまれてしまった。

(う、腕はマズイ!太くなってるかもしれないのに!)

反射的に手を軽く払ってしまう。

石神

サトコ
「あ···」

石神
氷川···

秀樹さんが一瞬固まる。

(しまった···!)

サトコ
「そ、その、誰かに見られたら困るので!」

石神
···そうだな
今夜、予定はあるか?

サトコ
「え···」

(こ、今夜!?なぜ!?)

サトコ
「特に予定はありませんが···」

石神
そうか。あとで詳細は連絡する

サトコ
「は、はい···」

(これは···デートのお誘い?それとも仕事のお手伝い···?)

背筋の伸びた秀樹さんの背中を見送っていると、程なくLIDEが着信する。

石神
『夕食は外で食べよう。店はあとで連絡する』

(デートのお誘いだった!)
(結構久しぶりかも···嬉しい···!)

庁内で誘われたこともあり、特別感に頬を緩ませかけ···パツっとした腕が目に入った。

(こ、この身体では脱げない···いや、食事だけかもしれないし!)
(うん、そう、きっと今日はご飯だけだよね···)

希望的観測のもと、夜は彼と食事に行くことになった。

サトコ
「な、何だか、すごくお洒落なレストランですね···」

石神
たまには、こういう店もいいだろう

(筋肉パツパツの時に限って、こんな雰囲気のいいお店に···!)

石神
随分着てるようだが、寒いのか?

サトコ
「す、少し···着ぶくれしちゃって恥ずかしいです···」

石神
建物の中は空調も効いている。自分で調節するのはいいことだ

(実は言うほど着込んでないというか、羽織ものでなるべく身体の線を隠そうと···)

石神
最近、忙しかっただろう

食前酒を傾けながら、労わるような声をかけてくれる。
それがこの間の潜入捜査の話だということは、すぐにわかった。

サトコ
「待機の時間が多かったのは大変でしたが、勉強にもなりました」

石神
津軽と百瀬と籠ると聞いた時は、気にかかったが
頼もしくなったな

サトコ
「えっ!?」

(た、逞しい!?)

びくっと反応した拍子に手の甲がグラスに当たり、秀樹さんがさっとそれを支えてくれた。

石神
···どうした?やはり何かあったのか

サトコ
「逞しいですか···?やっぱり···」

石神
ん?頼もしいと言ったのが気に障ったのか?

サトコ
「頼もしい···あ、頼もしいですか!」

(何て聞き違いを···!)

石神
まだ疲れを引きずっているようなら、今日は早めに···

サトコ
「いえ、大丈夫です!その、秀樹さんに褒めてもらえるとは思わなかったので···」

石神
他班に行ったからと言って、お前の仕事を見ていないわけじゃない
元教官としても上司としても、同じ職に就く者としても···お前のことはいつも見ている

サトコ
「秀樹さん···」

ロマンチックな照明の中、彼の優しい視線が注がれー-

(嬉しいけど、い、今は···)

いつ体型の変化を指摘されるかと、気が気ではない。

石神
サトコ···

サトコ
「は、はい!」

石神
···冷めないうちに食べよう

サトコ
「あ、はい···いただきます···」

上手く秀樹さんと視線を合わせられないまま、大変美味しい食事の時間は過ぎて行った。

to be continued

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