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欲しがりカレシのキスの場所 全員1話

津軽
ねえウサちゃん、モデルになってくれる?

サトコ
「···ふぁい?」

しばしの休憩タイムに入り、コーヒーを飲みながらクッキーを頬張っていたときのこと。

津軽
聞こえなかった?モデル

サトコ
「ホヘフ···?ほんへほんはははひひ」

津軽
ちょっと何言ってるかわかんない

サトコ
「ハッ···」

慌ててクッキーを呑み込んで、津軽さんに向き直った。

サトコ
「モデルなんて、なんでそんな話になったんですか?」
「というか···なんですか、モデルって」

津軽
あ、そこから?
ええとね。モデルっていう職業は服や髪を宣伝するために···

サトコ
「そこからじゃないです!もうちょっと先からお願いします!」

津軽
注文多いな···
要するに、モデルとして潜入することになったんだよ
それをウサちゃんにお願いしたいから、モデルになろ?

サトコ
「そんな、『一緒に帰ろ?』みたいなノリで言われても···」
「そもそも、モデルなんてそんな簡単になれるものじゃないですよね?」

津軽
その通り。今のウサちゃんじゃ全然ダメ。箸にも棒にもかからない

サトコ
「そんなに!?」

津軽
でも安心して。ちゃんと俺たちが全力でプロデュースしてあげるから
そうと決まれば、ほら、行くよ

サトコ
「ええ···!?」

わけがわからないまま、津軽さんに連れて行かれたのは···

庁舎内のトレーニングルームでは、意外なふたりが待ち構えていた。

石神
来たか

後藤
氷川、お疲れ

サトコ
「石神さん、後藤さん···どうして」

津軽
ボディメイクはふたりに頼んであるから
今回の潜入はもちろん、ウサちゃんがメインだからね
モデルとして中途半端なまま潜入することは、任務の失敗を意味する

サトコ
「は、はい」

(『モデルになろ?』なんて軽く言われたから実感わかなかったけど)
(これは仕事なんだ。気を引き締めてやらなゃ)

津軽
それじゃ秀樹くん、誠二くん、あとはよろしくね

後藤
わかりました

津軽さんが出て行くと、石神さんが厳しい表情を私に向ける。

石神
いいか。やるからには完璧を目指す
モデルとして潜入するには、まずは体型をそれなりにしなければならない

(それなりですらないと間接的に言われた気が···)
(でも確かに、今の私はモデルとは程遠いしな)

サトコ
「とりあえず、何をすればいいでしょう?」

石神
まずは体幹を鍛える。それと、モデルに必要な筋肉だ

後藤
筋トレとヨガで様子を見よう。急に長時間やっても意味がないからな

サトコ
「後藤さんも教えてくれるんですね」

後藤
ああ。自分のトレーニングにもなって一石二鳥だ

石神
後藤と相談して、バランスのいいメニューを考えてきた

石神さんが取り出したのは、紙にびっしりと書かれたメニューだ。

(すごい···石神さんらしい···)
(これだけのメニューをこなせば、モデルになるのも夢じゃない気がしてくる···)

トレーニングのために着替え、早速ふたりにレッスンをお願いした。

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その日のトレーニングを終えて、3人でひと息つく。

石神
思っていたよりも動きは良かったな。公安学校時代に比べてキレもあった

サトコ
「本当ですか?」

後藤
ああ。今までの経験もあるから、飲み込みも早い
身体が覚えているだろうし、明日からはメニューを見ながらひとりでできるだろう

サトコ
「はい、頑張ります!」

後藤
どんなときでも、背筋を伸ばして歩け。まっすぐに前を見れば緊張もほぐれる

石神
不安かもしれないが、努力は決して裏切らない
だがお前なら大丈夫だ。本番も、堂々と潜入して来い

サトコ
「ありがとうございます!」

(公安学校時代から厳しかった石神さんにそう言ってもらえると、自信がつく···!)
(後藤さんの教え方もわかりやすかったし、潜入まで毎日頑張ろう)

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トレーニング後シャワーを浴びて公安課ルームに戻る途中、鳴子に会った。

佐々木鳴子
「あれ?サトコ、シャワー浴びてきた?」

サトコ
「うん。ちょっとトレーニングしてて」

佐々木鳴子
「もー、仕事だから仕方ないってわかってるけど、女捨てちゃダメだよ」
「ほら、髪もボサボサだし。ちゃんと乾かした?」

サトコ
「ええと···適当に」

佐々木鳴子
「いくら時間がないって言っても、こんなんじゃ髪が痛むよ」
「ああ、メイクも適当だし···ほんっとサトコってたまに女捨ててるよね」

サトコ
「うっ···返す言葉もない···」

千葉大輔
「あれ、ふたりとも何してるの?」

立ち話しているところに、千葉さんがやってくる。

サトコ
「3人揃うの久しぶりだね」

千葉大輔
「こうやってると、訓練生時代に戻ったみたいだよな」
「でも氷川は、あの頃より大人っぽくなったよね」

サトコ
「えっ、本当に?」

佐々木鳴子
「もう、千葉さんはサトコに甘いんだから」

千葉大輔
「いや、そういうわけじゃ···」

佐々木鳴子
「とにかく、どんなときでも女だってことは意識してなよ」

サトコ
「う、うん。わかった」

鳴子の叱咤を有り難く受け止め、オフィスに戻った。

ドアを開けると、そこには颯馬さんと津軽さんがいた。

颯馬
「サトコさん、待ってましたよ」

津軽
ウサちゃん、出掛けるよ

サトコ
「えっ?どこにですか?」

颯馬
「ショーで着る衣装の準備ですよ」

津軽
今回のショーは特殊で、自分たちで衣装を用意しないといけないんだよね

サトコ
「そうなんですか···でもモデルの衣装を選ぶなんて、ちょっと自信ないです」

颯馬
「そのための私ですよ」

津軽
周介くん、俺の存在忘れないでくれる?

颯馬
「ああ、失礼しました。私だけで十分だと思っていたので」

(え、なにこのバチバチ感···?)

笑顔なのにまったく目が笑っていないふたりについて、オフィスを出た。

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やってきたのは、高級そうな服やアクセサリーを揃えるお店だ。

津軽
今回のショーは服そのものとかじゃなくて、トータルコーディネートを見る場だから
いくら潜入とはいえ、適当なものを着て行くわけにいかないからね

颯馬
ええ。潜入だと気付かれないように、むしろ一番美しいサトコさんに仕立てなければ

サトコ
「でも、あまり目立つのもよくないんじゃ···」

颯馬
内面から美しさがにじみ出る貴女が、目立たないようにと言うのは無理な話ですよ
出会った頃よりも女性らしく素敵になったサトコさんには、これが似合いそうです

そう言って颯馬さんが選んでくれたのは、上品で色気のある、真っ赤なシュシュだった。

颯馬
あの頃よりも髪も伸びましたし、簡単なヘアアレンジなら私が教えますから

サトコ
「わあ···ありがとうございます。でも少し大人っぽ過ぎるような」

颯馬
貴女の魅力を最大限引き出すには、このくらいでちょうどいいですよ

津軽
ウサちゃん、このワンピースなんてどう?

津軽さんが見せてくれたのは、上下セットのワンピースだ。

サトコ
「あ、可愛いですね。スカートもふわふわで素敵です」

津軽
でしょ。ウサちゃんにピッタリだと思うんだけど
素材はいいんだから、身に着けるものひとつで印象も変わるよ

颯馬
職業柄仕方ないかもしれませんが、サトコさんはあまりオシャレが出来ませんから
せっかくですし、今回は目一杯着飾ってください

サトコ
「は、はい。ありがとうございます」

(職業柄オシャレしないんじゃなくて、忙しくてできないだけなんだけど)
(でも鳴子に『女捨ててる』って言われたし、それは黙っておこう···)

津軽
それじゃ、はいこれ。ファッションショー、頑張って

颯馬
これまでとは違った貴女が見られるのが楽しみですよ

そう言ってふたりが各々、お買い上げしたものを差し出してくれる。

サトコ
「えっと···おいくらですか?」

津軽
いいよ。最初からプレゼントしようと思ってたし

サトコ
「でも···いくら捜査用とはいえ、申し訳ないです」

津軽
俺はウサちゃんの上司だから。これくらい当然でしょ

颯馬
ええ。元教官のよしみです。気にしないでください

サトコ
「おふたりとも、ありがとうございます」

津軽・颯馬
「いいえ」

(ハモった···)
(ふたりの間に火花が見えるの、気のせいかな···?)

怒涛の一日を終えて家に帰って来ると、クタクタの身体でベッドに倒れ込んだ。

(疲れた···トレーニングだけでかなり疲れた···)
(公安学校を卒業してからは、あんなにハードなトレーニングはしてなかったから)

サトコ
「でも、疲れたなんて言っていられないよね。私がメインの潜入捜査なんだから」
「絶対に気付かれないように、モデルとして完璧を追求しなきゃ」

(鳴子にも『どんなときも女らしくいろ』っていつも言われてるし、これはいい機会かも)
(潜入の為にも自分磨きをして、綺麗になれるように頑張ろう)

サトコ
「そうすれば、今回だけでなく今後の仕事にも役立つかもしれない」
「何より···」

(カレに喜んでもらえるかもしれない。そう思うともっと頑張れる気がする)

元教官たち、そして上司の津軽さんに言われたことを思い出す。
優しい言葉に包まれ、疲れ果てた身体は眠りに引き込まれていった。

to be continued

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