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欲しがりカレシのキスの場所 石神3話

事の始まりは、少し身体を鍛え過ぎた···それだけのことのはず、だった。
それが様々な理由で話はおかしな方向に向かってしまい···。

サトコ
「···っ」

石神
腹直筋上部···

秀樹さんの唇が腹部に押し当てられる。

石神
外腹斜筋···ここは随分と引き締まったんじゃないか

サトコ
「そ、そうかもしれませんが···っ」

気にしている筋肉をわざわざ意識させるように唇で辿ってくる。
腕は押さえられていて、手で隠すことも押し返すことも出来ない。

石神
大腿四頭筋はやや膨らんだようだ

右手が腕から離れ、腿を撫で上げられた。
やっとその肩に手を置くと、秀樹さんと目が合う。

石神
···そんな顔をするな

サトコ
「そんな顔って···」

自分でも、どういう顔をしているのかわからない。

石神
僧帽筋、三角筋、大胸筋···

サトコ
「そ、それが恥ずかしいから···っ」

石神
なぜ恥ずかしい

もう一度顔を伏せた彼が確認するように唇を押し当ててくる。
恥ずかしいと言っているのに、口づけに反応してしまう自分にもさらに羞恥を掻き立てられた。

サトコ
「だって、嫌じゃないですか···?」
「もともとあまりない女性らしさが、皆無に近く···っ」

石神
···嫌だと思っていたら、こうはならない

サトコ
「え···」

手を取られ、導かれた先は秀樹さんの下腹部。
布越しでも分かる、確かな昂ぶり。

サトコ
「こ、これ···」

石神
お前は警察官だ。鍛えて然るべき。体幹も良くなる
感心こそすれ、マイナスの感情を抱くと思うか?

サトコ
「秀樹さん···」

(嫌じゃ、ないんだ···)

ほっとして目の奥が熱くなる。
自分でもこの瞬間まであまり意識したことがなかったけれど。
好きな人にありのままを受け入れてもらえるのは、こんなにも嬉しい。

石神
さっきお前は、どんな俺でも俺に変わりないと言っただろう

サトコ
「はい。それが答えだと言ったのは···」

石神
どんなサトコでも、サトコに変わりない
身体つきが変わっただけで、気持ちが変わると思ったか

サトコ
「その、男性は結構デリケートだと言うので···」

石神
俺がその辺りの男と同じだと?

サトコ
「そ、そういうわけでは···」

(あ、あれ?どんな私でも受け入れてもらえるっていう感動的な話だったはず···)

それが今は、秀樹さんは眼鏡があれば押し上げてそうな勢いだ。
こういう時の彼は逃してはくれない。

石神
俺を信用していないのか

サトコ
「ち、違います!秀樹さんを信用していないわけではなく···」
「自分に自信がないのかもしれません···」

石神
お前はよくやっている。なぜ、自信がない

サトコ
「刑事としての自信と、個人としての自信は別で···」
「もちろん、刑事としての自信もそんなにないですが···」

長い指先が静かに頬を滑った。
私の言葉を最後まで待ってくれている。

サトコ
「秀樹さんの恋人だって···時々、信じられなくなるくらいで···」
「すごく好きだから···不安になるの、かも···」

後半は恥ずかし過ぎて両手で顔を覆ってしまった。

石神
サトコ···

手が重ねられ、ゆっくりととられた。
逃げ場もなく合わせた視線は、とても優しい。

石神
言いたいことはわかった。おそらく、気持ちも

サトコ
「本当···ですか?」

石神
理屈ではわかっていても、つい考えてしまうことはある

サトコ
「秀樹さんにも、そういうことがあるんですか?」

石神
津軽班の潜入捜査に入っている間、俺が何も考えなかったと思うか

サトコ
「もしかして···心配、してくれたとか···?」

石神
津軽のことは、それなりに知っているつもりだが
女性刑事との潜入捜査については情報がなかった

サトコ
「ん···っ」

髪が梳かれ、こめかみにキスを与えられる。
耳から首筋へと滑り、鎖骨に強めに押し当てられた。

石神
銀室では、他班の情報は入ってこないからな···

もどかしさを伝えるかのように、肌を啄む力は強くなっていく。

(気にしてくれてたんだ···)

知らないところで想われていたのだと知るのは、特別な嬉しさがあった。

石神
不安にさせた責任は俺にもある

サトコ
「そ、そんなことはないです!」

石神
いや。この程度のことで疑うことのないよう
教え直す

サトコ
「···っ」

気にしていた身体の全てを愛おしそうに口づけられていく。

(いつもキスしないようなところまで···っ)
(別の意味で恥ずかしさが···!)

サトコ
「あ、あの、もう大丈夫っ、秀樹さんの気持ちは分かりましたから···っ」

石神
そうか

サトコ
「だから、その···っ」

いつの間にか膝裏をぐっと持ち上げられていて、脚にも丁寧なキスが落とされている。

石神
俺の気持ちがわかったのなら、わかるだろう

サトコ
「え···」

石神
ここまできて止められると思うか

サトコ
「!」

もともと几帳面な秀樹さんの何かのスイッチを入れてしまったようで。

(身体を隠すとか、そういう話じゃなく···!)

隅から隅まで確かめるような唇と指先に。
鍛えた甲斐もないほどに、全身骨抜きにされてしまったのだった。

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石神
無理をさせたか?

サトコ
「大丈夫です···」

そう答えながらも。私はベッドに深く沈んでいる。

(また思わぬところが筋肉痛になりそう···)

石神
いろいろ気にしていたようだが

膝枕をしながら、髪を梳かれる。

石神
懸命に仕事をしているお前は美しく見える

サトコ
「ボロネズミの時も···ですか?」

石神
ボロネズミ?

サトコ
「潜入中の私を見て、津軽さんがそう···」

石神
それはあいつに見る目がないんだろう

身体をこちらに向けた秀樹さんが頬を優しくくすぐってくる。

石神
潜入明けのサトコは、俺からすれば抱きしめたい存在だ

サトコ
「秀樹さん···」

(女が終わってるって言われるほどの私に、そんなことを言ってくれるなんて···)

サトコ
「私、もっともっと···秀樹さんに相応しくなれるように頑張ります!」

石神
お前が頑張っていることは、よく知っている

サトコ
「でも、もっと頑張りたいんです」

(今度は間違えない方向で···)

秀樹さんがくれようとした自信を自分でも持てるように。
彼にとって相応しい恋人でいられるように。

そして翌々日の休み明け。

サトコ
「必要な書類、資料庫から全部持ってきました!」

津軽
その3箱、一度で持って来たの?

百瀬
「ゴリラからキングコングに進化すんのか」

津軽
えー、これ以上車内圧迫しないで欲しいなー

サトコ
「荷物は一度で運んだ方が効率良いですから」
「他に持ってくるものがあれば、運んできます」

津軽
やたら張り切るね

百瀬
「ちっ」

津軽
潜入明けにそういうパワー見せられてもねぇ

サトコ
「津軽班でやることがなければ、他の班に手伝いに行ってもいいですか?」

津軽
うわ···

津軽さんに引かれるのは心外だけれど、それを気にしたりはしない。

(仕事に一直線な私を秀樹さんは綺麗だって言ってくれるんだから!)

ひとつひとつ、積み上げていくのは仕事も筋トレも同じ。
けれど、例のジムに通い続けるかは···実のところ、検討中で。
今は仕事を積み上げることで、彼が綺麗だと思ってくれる存在でいたかった。

Happy End

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