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欲しがりカレシのキスの場所 加賀3話

加賀
出せ。持ってんだろ

サトコ
「え···」

前回までのあらすじー-恋人に有り金全部巻き上げられました。

(···っていうのは冗談で)

加賀
ほらよ。しまいだ

アイブロウを化粧ポーチにしまった加賀さんが、ポイッと私をしてるように離す。
鏡で見てみると、まるで最初からそこに存在していたかのように綺麗な眉が描かれていた。

サトコ
「すごい···!私はいくら描いてもダメだったのに」

加賀
なんでテメェの眉の形を俺の方が覚えてんだ

サトコ
「あ、言われてみれば普段の私の眉ですね、これ」
「ちょっと形変えてみようと思ったんですけど、このままの方がいいのかな···」

加賀
なんでそんな無駄なことした?

本気でわからない、とでも言いたげに、加賀さんが訝し気に尋ねてくる。

サトコ
「無駄···まあ、その通りですけど···」
「好きな映画に出て来る女性が、こう、キリッとした眉毛だったんです」

加賀
······

サトコ
「だから私も、ちょっとイメチェンのつもりでやってみようかなって」

加賀
······
······

サトコ
「あの···加賀さん?」

加賀
くだらねぇ

サトコ
「溜めて溜めてそれですか···」

肩を落とす私に、加賀さんが鍵を投げてよこした。

サトコ
「えっ?」

加賀
家で待ってろ

サトコ
「は、はい!」

鍵を大事に握り締め、給湯室を出て行く加賀さんを見送る。

(みんなの前でばんそうこうを剥がされるという仕打ちも、この鍵ひとつでどうでもよくなる···)
(ほんとチョロいな、私)

加賀さんのおかげで堂々と歩けるようになったので、弾む足取りで給湯室のドアを開けた。

(眉毛描いてもらったお礼に、加賀さんが好きなごはん作って待っていよう)

でも弾む足取りだったのは最初だけで、当然の疑問が湧いてくるにつれ、もんもんとし始めた。

(···なんで、眉毛描くの上手なんだろう?)
(もしかして、花ちゃんの将来のため···?)

サトコ
「いや、加賀さんなら花ちゃんが二十歳になっても『化粧なんざまだ早ぇ』って言ってそう」
「ってことは···」

その陰に女性の存在を感じて、考えれば考えるほどもやもやしてくる。

(もちろん、現在進行形じゃないのはわかってるけど)
(でも···でもなぁ···)

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加賀
あ?メイク?

サトコ
「はい···なんであんなに上手なのかと···」

料理を作ってる最中もずっと気になってしまい、つい本人に尋ねてみた。
野菜が入っていない食事を満足げに口に運びながら、加賀さんが答えてくれる。

加賀
仕事だ

サトコ
「え?メイクがですか?」

加賀
昔、パリコレに潜入した
そんときの名残だ

(パリコレに潜入···!?すごすぎる···!)

サトコ
「ってことは、メイクアップアーティストか何か···?」

加賀
ああ

サトコ
「つまり、綺麗なモデルたちに囲まれて···」
「···加賀さん、モデルにもモテますよね!?」

加賀
なに戯言言ってんだ。んなわけあるか

サトコ
「ええ~···?ほんとに?」

(本庁の女性職員のみならず、看護師さん、道行く女性たちまでも虜にしてきた加賀さんが)
(いくら相手がモデルだろうと、モテないはずがない!)

加賀
だとして、テメェは俺に何を求める

サトコ
「あっさり認めましたね···」

女の勘を働かせる私に、加賀さんは呆れ顔。

(過去のことにヤキモチ妬いても仕方ないって、わかってるけど)

サトコ
「複雑な乙女心ってやつですよ···」

加賀
乙女って歳でもねぇだろ

サトコ
「加賀さん、今日はひどすぎませんか!?」

加賀
喚くな

結局加賀さんは、付け合わせのサラダ以外、綺麗に平らげてくれた。

その後。

加賀
···いつまでむくれてやがる

なかなかベッドに近づこうとしない私に、読んでいた本から顔を上げて加賀さんが舌打ちする。

サトコ
「別に、むくれてるわけじゃ···」
「全然むくれてないわけでもないですけど」

加賀
めんどくせぇ

吐き捨てられて、とぼとぼとベッドへ向かう。

(本当に、そこまでむくれてるわけじゃないんだけど)
(お風呂に入ってメイク落としたら、できるだけ加賀さんに顔を見せたくない···)

加賀さんが描いてくれた眉は跡形もなく消え去り、今は再び眉ナシ状態だ。

(みんなには爆笑されたし、加賀さんもお腹痛くなるほど笑ってたし···)

できるだけうつむきながらコソコソとベッドに入り、加賀さんに背中を向けて横になった。

加賀
なんの真似だ

サトコ
「だから、今日は帰るって言ったんですよ···」
「これ以上、この顔を加賀さんに見られたくなんです」

加賀
テメェは相変わらず学習しねぇな

サトコ
「わっ」

肩を掴まれ無理やり振り向かされると、かつてあったはずの眉の上にキスをされた。

サトコ
「か、加賀さん···?」

加賀
見た目だけ気にするなら、テメェなんざ選ばねぇ

サトコ
「今日は本当に私批判がひどい···」

加賀
クズが。眉毛があろうがなかろうが、テメェはテメェだろうが
そんなに気になるなら、元に戻るまで描いてやる。それでいいだろ

驚くほど優しい言葉に、おずおずと頷く。

加賀
ならもう、つべこべ言うんじゃねぇ

サトコ
「あ···」

(今の、すごく優しい笑顔···)

と思ったのも束の間、幻だったのかと疑うほどの速さで笑顔は意地悪なものに変わった。

サトコ
「加賀さん···!?何か企んでないですか!?」

加賀
もっとよく見せろ

サトコ
「ちょっ、やめてください!あんまり見ないで!」

加賀
駄犬のクセに見た目なんざ気にするからこうなるんだ
眉の形を変えたってどうしようもねぇだろ

サトコ
「ごもっとです···でも最近、忙しさからちょっと女子力が足りないなって」

加賀
足りねぇも何も、最初から持ってねぇだろが

サトコ
「また私批判!」

ベッドの中でもまだ、私の眉を懸けた攻防は続く。
両手で眉毛を隠す私の手を無理やり引き剥がして、加賀さんは手のひらにキスをくれた。

サトコ
「え···」

加賀
俺に隠し事なんざ、百年早ぇ

サトコ
「隠し事っていうか、隠し眉ですけど···」

加賀
最初から素直に吐いてりゃこんなことにならなかっただろ

サトコ
「結局は自白を強要されたじゃないですか···」

ばんそうこうを無理やり剥がされたことを思い出して、思わず唇を尖らせる。
その唇にキスが落ちてきて、目を丸くする私を加賀さんが笑った。

加賀
間抜けな面だな

サトコ
「び、びっくりしたんです···!」
「···加賀さんって、やっぱり」

加賀
なんだ

サトコ
「意外と私のこと、好きですよね···?」

加賀
······

(無反応···)

サトコ
「だって、眉毛がなくてもいいって」

加賀
いいなんざ言ってねぇ
ただでさえ頭が足りねぇのに、このうえ眉までなくしてどうすんだ

サトコ
「ちょいちょい私批判を挟んでくる···」

話しながら重なる唇は、少しずつ甘く深くなっていく。
その手がパジャマのボタンを外して中へ滑り込んでくるのを、止める理由はない。

(眉毛がないまま···って、ちょっと恥ずかしいし情けないけど)
(でも加賀さんが、それでいいって言ってくれるなら)

無理に自分を変えようとしなくてもいいのかもしれない。
そう思えるほどに、加賀さんは私を愛してくれた。

Happy End

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