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欲しがりカレシのキスの場所 石神2話

レストランで食事を楽しんだ後は、最上階のバーへと誘われた。

サトコ
「めずらしいですね。秀樹さんが外で呑むの」

石神
明日は休みだ。お前もそうだろう?

サトコ
「はい。あれ、言いましたっけ?」

石神
言ったはずだ。お前のことは見ている···と

サトコ
「秀樹さん···」

バーの照明は薄暗くて、少し気を抜くことができた。

石神
仕事明けは疲労もあったようだが、今はどうだ?

サトコ
「疲れて見えましたか?」

(秀樹さんの目から見ても、髪も肌もぼろぼろだった?)

石神
長期の仕事の後に疲れが出ない方が、どうかしている

サトコ
「でも、秀樹さんは···」

(どんなにきつい捜査の後でも疲れを見せることは、ほどんどない···)

石神
だから、サイボーグと呼ばれている

サトコ
「あ···そういうことなら、私もサイボーグと呼ばれたいです!」

石神
ふっ···そんなことを言うのは、お前くらいだ

秀樹さんが表情を緩めるのが分かった。
カウンターに置いた手に彼の手が重ねられる。
眼鏡の奥の瞳が照明を弾いて艶めく。

石神
···家に来るだろう

サトコ
「え···」

その指先にかすかに力が籠る。

(前に家に行ったの、いつだろう···)
(私もまだ一緒にいたい。でも、泊れば···)

石神
···何か問題あるか?

サトコ
「いえ、その···」

表情に翳りが見えれば、断るという選択肢は消える。

サトコ
「お邪魔します···」

石神
行こう

重ねた手をそのままに秀樹さが席を立つ。
手を繋いだままバーを出れば、色々な意味で緊張してきた。

先にシャワーを浴びてもらい、次に私が入ることになった。
バスルームの鏡に映った自分の身体を、改めて見る。

(確かに膨らんだかも···たった1週間で···)
(こんなに筋肉がつきやすかったなんて···!)

服で何とか隠せても、脱いでしまえばパンッと張った筋肉がはっきりわかる。

(この身体ではひかれてしまう···)
(申し訳ないけど、今夜はこのまま眠らせてもらおう···!)

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サトコ
「あの、秀樹さん、今日は···」

湯上りの熱が冷めないうちに話をしようと口を開けばー-

石神
サトコ

サトコ
「え···っ」

寝室に入るなり、腕を引かれてベッドに倒れ込む。
こんな性急な秀樹さんはめずらしい。

石神
温まってきたようだな

サトコ
「!」

彼の手が部屋着のTシャツの中に入ってきそうになり···。

(まずい!)

サトコ
「まままま、待ってくださいっ!」

石神
!?

ほぼ反射的に両手が出ていた。
そのせいで力の加減ができず、秀樹さんも不意をつかれー-

石神
···っ

ベッドの下に転げ落ちる秀樹さん。

サトコ
「!!」
「す、すす、すみません、すみません!」

石神
······

(な、何てことを!)

石神
眼鏡···

サトコ
「眼鏡、ここです!大丈夫です、壊れてません!」

彼の斜め後ろに落ちている眼鏡を慌てて拾い、秀樹さんもベッドへと連れ戻す。

サトコ
「あの、一応確認を···眼鏡の···」

石神
ああ···

事態を掴めていない彼に、両手で眼鏡を献上する。
秀樹さんはネジの緩みや歪みを確認し、問題ないと装着する。

石神
······
そういう気分ではないと気付かずに、すまな···

サトコ
「ち、違うんです!」

眼鏡をかけて冷静になった秀樹さんに謝られかけ、私はベッドの上でガバッと頭を下げた。

サトコ
「ム、ムキムキになってしまって···」

石神
ムッ···?

意味が理解できないというように、その眉間がぴくっと動く。

石神
どういうことだ

サトコ
「こういうことなんです···」

百聞は一見に如かず···と、秀樹さんを突き飛ばした二の腕の筋肉を見せる。
以前より目に見えて盛り上がる上腕二頭筋。

石神
···確かに、以前より鍛えたようだな

サトコ
「はい···実は全身、こんな感じでパンパンで···」

石神
潜入捜査中、そんなに空き時間があったのか

サトコ
「え?」

石神
張り込み中、暇潰しに筋トレをするのはよくあることだ

サトコ
「そうなんですか···」

(だから公安課の皆さんは、何だかんだと鍛えられてるんだ···)

妙なところで妙な謎が解け、納得したのも束の間。
そうではないと首を振った。

サトコ
「これは違うんです。仕事ばかりで、女らしさを忘れていたことに気付いて···」

石神
お前の女らしさは、その···

サトコ
「き、筋肉じゃありません!」
「これはその、鍛えることで身体の中から綺麗になりたかったというか!」
「筋トレはバランスのいいプロポーションを目指したからで···」

石神
···そうか

眉間にシワを寄せたまま、秀樹さんは頷く。

(全然論理的に説明できてないのに、理解しようとしてくれてる···)

その優しさが身に染みれば染みるほど、自分が情けなくなってきた。

サトコ
「1週間鍛え続けたら、思ったよりも膨らんでしまって!」
「こんなに筋肉がつきやすいなんて、自分でも知らなかったんです!」

石神
それが事の顛末か

サトコ
「は、はい···」

顔を上げ秀樹さんを見れば、シワはさらに深くなり表情は厳しいものになっている。

(さすがに呆れられた···?)

サトコ
「あの、今日はこれで帰ります。本当にすみませんでした!」

もう一度頭を下げて、ベッドから降りようとすると。

石神
待て

今日二度目の言葉が耳に届く。
同時に二の腕をつかまれ、ベッドの上へと押し倒された。

(秀樹さん···?)

石神
つまり話を統合すれば···身体つきが理由で拒否したのか

サトコ
「きょ、拒否するつもりはなかったと言いますか、拒否したくはなかったのですが!」
「結果的に、そのような事態に···」

秀樹さんの両手は私の腕を押さえている。
傍から見れば色気のある体勢なのに、互いの口調は事件の報告をしている時のようだった。

石神
ならば聞くが。お前は俺の体型が変わったら、どう思う

サトコ
「秀樹さんの体型が?」

覆い被さっている彼の身体をじっと見つめる。
シャツに覆われているが、そこに強靭な肉体があることはよく知っていた。

サトコ
「秀樹さんはどんな時でも体型を維持するのでは?」

石神
言っただろう。張り込みが長引けば、筋トレに走ることもある
急激に筋肉がつく可能性は充分にある

サトコ
「それはそれで、素敵だと思いますが···」

石神
反対に急に痩せたら、どうだ?
潜入捜査のために、人相を変える必要がある場合もある

サトコ
「そこまで···」

(いや、私が経験していないだけで、年単位の長期潜入もあると聞いてる)
(親しい人たちに気付かれないように、人相を変えることもあると···)

サトコ
「健康は心配になりますが、どんな秀樹さんも秀樹さんに変わりはありません」

石神
それが答えだ

サトコ
「え···」

言葉の意味を問おうとした時には、シャツを一気に捲られていた。

サトコ
「!」

石神
······

露になった素肌に突き刺さる眼鏡越しの視線。

(か、隠せない!)

腕を動かそうとしても、秀樹さんの手はびくともしなかった。

石神
俺がお前をどう思ってるのか
その身体で知るといい

見下ろしながら眼鏡を外す仕草にはどうしようもない色気があり、思わず目を奪われた。
その隙に、秀樹さんの顔は私の身体へと伏せられていってー-

サトコ
「ま、待って···っ」
「···っ」

腹部に唇が押し当てられれば、小さく息が漏れた。

to be continued

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