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欲しがりカレシのキスの場所 石神カレ目線

残業中の、ある深夜。

津軽
あー、明日からの潜入捜査、気が重いなー
ホテルの部屋に籠っての張り込みもあるし。新人がいると特にねー

石神
······

課内にいるのは、俺と津軽だけ。
わざわざ聞こえるように言ってるのは明白だ。

津軽
あ、秀樹くん、いたんだ

石神
ああ

津軽
今回の捜査、持久戦になりそうだけど。ウサちゃん、もつかねぇ?

石神
長期の潜入、張り込みの訓練も受けている
氷川は忍耐強い

津軽
まあ、ぬるま湯の中ならね
学校じゃなくて、本物の捜査の中ではどうかな

石神
······

津軽の顔は敢えて見なかった。
魂胆は分かっている。

(揺さぶりをかけてるつもりか)

銀室は恋愛禁止ー-俺とサトコとの関係を薄々察しているのは間違いない。

津軽
楽しみだね。捜査明けが

笑い交じりの声を残し、津軽は出て行く。
奴の性格も振る舞いもよく知っているが、聞き流すには今回は引っ掛かりが大きい。

(明日から···か)

携帯にサトコの名を表示し、迷う。
電話を掛けたところで何を話せるのか。

石神
······

(お前なら乗り越えられるはずだ。サトコ)

そう信じることが、今の俺にできることだった。

津軽班の潜入捜査は2週間で終了した。
それを長いと感じるか短いと感じるか···は、時と場合によるのだろう。

石神
仕事明けは疲労もあったようだが、今はどうだ?

(長かったと思うのは、個人的な感情によるところが大きいんだろうが)
(津軽班でなければ、感じ方は違ったか?)

手元に置いて見ていたかったという気持ちは、今でもどこか消えていない。
同時に頭にちらつくのは、津軽の薄い笑みだった。

(独占欲か、嫉妬か···)

石神
長期の仕事の後に疲れが出ない方が、どうかしている

サトコ
「でも、秀樹さんは···」

石神
だから、サイボーグと呼ばれている

サトコ
「あ···そういうことなら、私もサイボーグと呼ばれたいです!」

石神
ふっ···そんなこと言うのは、お前くらいだ

(本当に、お前という奴は···)

時にこちらが驚くほど真っ直ぐな想いをぶつけてくる。
それを受け取れば、離れていた時間を今さらながらに強く意識した。

石神
···家に来るだろう

サトコ
「え···」

いつもの俺なら、この時のサトコの変化に気付けていた可能性が高い。
らしくもなく、情が判断を鈍らせた。
それができなかった結果がー-

サトコ
「まままま、待ってくださいっ!」

石神
!?

彼女の様子がおかしいと思った時には、部屋の中が大きく動いていた。
ベッドから転げ落ちたと知ったのは、視界がぼやけてから。

サトコ
「す、すす、すみません、すみません!」

石神
······
眼鏡···

真っ先に眼鏡に意識が行ったのは同様の証かもしれない。

サトコ
「眼鏡、ここです!大丈夫です、壊れてません!」

それはサトコにしても同じようで、2人の視線は眼鏡に集まっている。
視界を取り戻すことで、思考も何とか元に戻していく。

(ベッドから落ちたのか···)

それが意味するところはひとつ。
目の前で小さくなっているサトコを見ていると、心臓の辺りが苦しくなった。

(捜査明けだ。どのような内容だったかは分からないが、精神的に堪えた可能性もある)
(サトコの気持ちをもっと考えるべきだった)

石神
そういう気分ではないと気付かずに、すまな···

サトコ
「ち、違うんです!」
「ム、ムキムキになってしまって···」

石神
ムッ···?

返ってきた答えは瞬時に理解ができないものだった。

石神
どういうことだ

サトコ
「こういうことなんです···」

話を聞いて、やっと事の次第がわかる。

(鍛えた身体を見られたくなかっただと···?)

彼女の身体つきの変化には気が付いていた。
あれは潜入捜査から帰ってきて、数日後のことー-

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廊下の先に、よく知る背中が見えた。

サトコ
「······」

潜入捜査明けは疲労の色が見えたが、この数日ですっかり快復したようだ。

(基礎体力の力か。以前よりも姿勢も体幹も良くなっている)
(訓練生時代とは違い、トレーニングの時間は自分で確保しなければならないが)
(真面目にやっているようだな)

労いをかねて食事に誘おうと思ったのが、この時だった。

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石神
つまり話を統合すれば···身体つきが理由で拒否したのか

サトコ
「きょ、拒否するつもりはなかったと言いますか、拒否したくはなかったのですが!」
「結果的に、そのような事態に···」

ベッドから転がり落ちるということも情けないが、それ以上に問題なのは気持ちの方だ。

(身体の変化ひとつで、俺の気持ちが揺らぐと)
(その程度だと思われているのなら)

心外であると同時に、俺の責任でもあるのだろう。

石神
俺がお前をどう思っているのか
その身体で知るといい

力で押さえるような真似は好まないが、今夜ばかりは仕方がない。
多少強引にでも、想いを伝えなければならない。

石神
腹直筋上部···
外腹斜筋···ここは随分と引き締まったんじゃないか

サトコ
「そ、そうかもしれませんが···っ」

彼女が気にしているところをひとつひとつ確かめるように唇で触れていく。
こちらが意識していなかったので気付かなかったが、確かに以前よりも筋肉に張りが出ていた。

(なぜこれをそこまで気にするのか···)

理解しようと思考を巡らせたが、答えは出なかった。

石神
なぜ恥ずかしい

わからなければ、本人に直接聞くしかない。
デリカシーに欠ける問いだというのは分かっていたが、聞かずに放置することも出来なかった。

サトコ
「だって、嫌じゃないですか···?」
「もともとあまりない女性らしさが、皆無に近く···っ」

石神
···嫌だと思っていたら、こうはならない

サトコ
「え···」

微笑まれれば、触れられれば、不意に純粋な顔を見せられれば。
鋼鉄と呼ばれる理性を揺らし、劣情を煽ってくる唯一の存在だというのに。

石神
俺を信用してないのか

サトコ
「ち、違います!秀樹さんを信用してないわけではなく···」

真っ直ぐにぶつかれば、彼女も瞳を潤ませながらも口を開いてくれた。

サトコ
「秀樹さんの恋人だって···時々、信じられなくなるくらいで···」
「すごく好きだから···不安になるのかも···」

石神
サトコ···

(お前は、本当に···)

頭の芯も身体の芯も、カッと熱されるというのは、こういうことなのだろう。
彼女に出会う前は知らなかった、愛おしいという気持ち。
それが今はこんなに俺の胸を占めている。

(俺が潜入捜査中のお前を想っていたように)
(お前も俺のことを、そこまで考えてくれていたのか)

仕事は真面目で凛としている彼女の健気ないじらしい一面。
筋肉がつこうが周りが何と言おうが、こんなに可愛らしい女性を俺は知らない。

(知っているのは、俺だけでいい)
(津軽などには一生気付かれてたまるものか)

サトコを『ボロネズミ』と表したこと、忘れはしない。

石神
潜入捜査明けのサトコは、俺からすれば抱きしめたい存在だ

一晩かけて、一晩で足りないのなら二晩かけてでも教えよう。

(俺がどれほど、お前にほれ込んでいるのか···)

彼女の内からなる美しさを、彼女自身にも愛して欲しいから。
俺も何度でも愛そうー-想いが伝わるまで。

Happy End

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