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欲しがりカレシのキスの場所 全員2話

モデルとしてファッションショーに潜入すると決まった、数週間後。

津軽
ウサちゃん、綺麗になったんじゃない?

サトコ
「···え?」

(綺麗···?ん?聞き間違い?)
(津軽さんが私を褒めてくれるなんて、そんな日が来るはずないし)

津軽
ウサちゃん?

サトコ
「あ、すみません。なんか今、幻聴が···」

津軽
大丈夫?疲れてるんじゃないの?

サトコ
「あ、やっぱり聞き間違いだったんですね」

颯馬
サトコさん、今日も綺麗ですね

サトコ
「ありがとうございます、颯馬さん」

津軽
ちょっと周介くん?俺が先にウサちゃんを褒めたんだけど?
ウサちゃんも、俺の時は二度見したくせに周介くんの言葉はすんなり聞くって

颯馬
普段から女性を褒めていないツケが回って来たんじゃないですか?

(ああ、またバチバチ···)

サトコ
「···えっ?じゃあさっきの津軽さんの言葉、幻聴じゃなかったんですか?」

津軽
幻聴だと思いたければそれでもいいけど

サトコ
「いえ!ちゃんと胸にとどめておきます!」

(颯馬さんは息をするように『可愛い』『綺麗』って言ってくれるから慣れてたけど)
(津軽さんに女性として褒められることなんて、もう二度とないかもしれない···!)

サトコ
「颯馬さんや東雲さんが教えてくれた美容法を試してるおかげかもしれません」
「それに、石神さんと後藤さんが考えてくれたトレーニングも続けてるし」

津軽
成果が出て来たみたいだね。これなら捜査に間に合うかな

サトコ
「はい、間に合わせます!」

(自分でも自分の変化を少しずつ感じてる)
(自信もついてきたし、もっと頑張ろう!)

潜入捜査前日、難波室長から連絡があり、私はあるショップに来ていた。

サトコ
「すみません、氷川です。難波さんに連絡を頂いて···」

店員
「承っております。こちらです」

店員さんが奥から持って来てくれたのは、綺麗な小瓶に入った香水だった。

サトコ
「わあ···!」

店員
「こちら、予約限定のものです。お支払いは済んでますので、今お包みしますね」

サトコ
「ありがとうございます」

(明日の捜査に役立ててくれって言ってたの、このことだったんだ)

店員から香水のショッパーを受け取ると、中にメモが入っていることに気付いた。

(『なかなか顔出せなくて悪いな。本当は直接渡したかったんだが』···)
(『ひよっこの緊張をほぐせるような香水を選んだから、これを俺だと思って頑張ってこい』か···)

サトコ
「室長、ありがとうございます···!」

後でお礼の電話をしようと決めて、大事に香水を持ち帰った。

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オフィスに戻ると、私のデスクの近くにいた黒澤さんが振り向いた。

黒澤
あ、サトコさん、おかえりなさい!

サトコ
「黒澤さん、どうしたんですか?」

黒澤
明日、潜入本番ですよね?これ、用意しておいたんです
デスクに置いておこうと思ってたんですけど、会えてよかった

サトコ
「それは···パンプスですか?」

黒澤さんが持っている箱には、津軽さんが選んだワンピースに合いそうなパンプスが入っている。

黒澤
サトコさんのイメージで選んだんですけど、履いてみてもらえますか?

サトコ
「もちろんです!ありがとうございます」

黒澤
あ、座ってください。サイズも見たいので、オレが履かせますから

サトコ
「そ、そんな···申し訳ないです」

黒澤
いいんです。やらせてください

サトコ
「じゃあ···お言葉に甘えて」

自分の席に座る私の足元に、黒澤さんがひざまずく。
箱から取り出したパンプスを、そっと私に履かせてくれた。

黒澤
どうですか?

サトコ
「すごくいいです。サイズもぴったりだし」
「それに、靴擦れしにくいですね。優しい履き心地で···」

何気なく話しながら、私を見上げていた黒澤さんと目が合った。

黒澤
こうしてると、お姫様にひざまずく王子様みたいですね

サトコ
「く、黒澤さん···!」

黒澤
冗談ですよ★
ところでサトコさん、ランウェイの歩き方って練習してます?

サトコ
「あっ、そういえばあまりしてないです」

黒澤
じゃあオレがコツを教えますよ
まずはあごを軽く引いて、背筋を伸ばして···

黒澤さんがくれたパンプスで立ち上がり、言われたように姿勢を正して歩き出す。
黒澤さんや室長のおかげで、さらに自信がついた気がした。

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潜入捜査当日、なぜか呼び出された取調室に行くと、加賀さんと東雲さんがいた。

サトコ
「あの、まさかこれから尋問でも···?」

加賀
尋問されるようなことしやがったのか

サトコ
「め、滅相もない!」

東雲
兵吾さんはメイク、オレはネイル担当だから

サトコ
「え!?おふたりにしてもらうなんて、そんな恐れ多い···!」

加賀
テメェじゃまともにできねぇだろ

東雲
時間がないから早くしてくれる?

サトコ
「は、はい!」

津軽さんが選んでくれたワンピース、颯馬さんチョイスのシュシュ。
黒澤さんが準備してくれたパンプスを履き室長が買ってくれた香水をつけて、
取り調べのデスクに座る。

サトコ
「···なんかおかしくないですか、これ」

加賀
黙れ

サトコ
「ヒィ···」

東雲
兵吾さん、ちゃちゃっとやっちゃいましょう

加賀
ああ

私の向かいの席に、ネイル担当の東雲さんが座る。
加賀さんは普段私が自分でするよりもずっと丁寧に、メイクを施してくれた。

(すごく贅沢な光景なのに、ものすごい威圧感···!)
(まるで自分が取り調べを受けているような、何とも言えない気持ちに···)

そのうえ元教官ふたりからネイルとメイクをしてもらっているという状況に、頭がついていかない。

(じっとしてなきゃいけないのはわかるけど、落ち着かない···)

東雲
ちょっと、動かないでくれる?

サトコ
「うっ、すみません···でもつい、そわそわしちゃって」

加賀
次にちょっとでも動いたら撃つ

サトコ
「撃つ!?」

東雲
いっそ息止めてて。5分くらいでいいから

(どっちも間接的に死を意味している···)

命の危険を感じる中、ようやくメイクとネイルが終わった。

サトコ
「ありがとうございました。頑張ってきます!」

加賀
···表情が硬い

サトコ
「うっ···」

緊張が顔に出てしまっている私に、加賀さんがため息をついた。

サトコ
「すみません···会場に着いたらひとりでやらなきゃいけないんだと思うと」

加賀
誰がひとりだって言った

サトコ
「え?」

加賀
ハナからテメェだけでうまくいくなんざ思ってねぇ

東雲
思ってたらオレたち、ここにいませんよね

サトコ
「頼りなくてすみません···」

加賀
ここで緊張したって仕方ねぇ。いいからさっさと行ってこい

東雲
ま、オレたちがいるから、気張らずやっておいで

サトコ
「······!」

(そうだ、私ひとりなはずがない)
(ランウェイではひとりだけど、周りにみんながいる)

そう思うと、それまでの緊張や不安が消えていく気がした。

サトコ
「はい···行ってきます!」

ファッションショーは、思っていたよりも大規模なものだった。

(でも大丈夫。石神さんと後藤さんのトレーニングメニューを数ヶ月こなして)
(津軽さんと颯馬さん、室長と黒澤さんが選んでくれたものに身を包んでる)

そして、爪の先まで加賀さんと東雲さんが綺麗にしてくれた。
その気持ちに背中を押されるように、ランウェイを歩き出す。

(堂々と前を見て。あごを軽く引いて、背筋を伸ばして)
(見ててください、皆さん···!)

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サトコがランウェイを歩く様子を、持ち場についた男たちが見守った。

石神
(よし、胸を張って歩けているな。努力のたまものだ)

後藤
(あんなに毎日トレーニングしたんだから、お前ならやれる)

津軽
(うんうん。ウサちゃん、自信に満ちたいい顔してるね)

颯馬
(やはり、彼女はどのモデルよりも美しい)

黒澤
(サトコさん、頑張ってください!オレたちみんな応援してますよ!)

加賀
(コケんじゃねぇぞ)

東雲
(あの子にしてはまあまあやれてるほうじゃない)

様々な感情渦巻く中、男たちに共通した意見はー-

(彼女を一番綺麗にしたのは、自分だ)

潜入捜査は無事に終わり、接触したモデルから情報を得て帰って来た。
その翌日、晴れ晴れした気持ちで登庁した私が見たものはー-

石神
俺と後藤だと言ってるのがわからないのか?

後藤
ええ。間違いなく俺たちが考えたあのメニューのおかげです

黒澤
いやいや、知ってます?オレがトータルコーディネート考えて選んだの

津軽
言っとくけど、あの子の全身を彩ったのは俺が選んだワンピースだから

黒澤
でも全身って言うなら、難波さんの香水に勝るものはなくないです?

颯馬
そういうことなら、彼女の髪は私が独占したというわけですね

東雲
爪の先まで綺麗にしたのはオレですけどね?

加賀
くだらねぇ···顔のメイクが一番重要だろ

(なんか言い合いしてる···どうしたんだろう)
(よく聞こえないけど、ちょっと入りにくい···)

入り口でおどおどしていると、私の気配に気付いた上司たちが一斉に振り向いた。

石神
氷川、聞きたいことがある

サトコ
「は、はい!」

黒澤
サトコさんを一番綺麗にしたのは誰ですか!?

津軽
もちろん俺だよね?ウサちゃん

後藤
あのトレーニングメニューでだいぶ身体が絞れたはずだ

颯馬
赤いシュシュ、とてもよく似合っていましたよ

加賀
女を綺麗にするなんざ、メイクが一番だろ

東雲
意外とさりげないオシャレってあるよね。ネイルとか

サトコ
「え、ええと···」

(な、何事···!?なんて答えても絶対角が立つ気が···!)

捜査は無事に終了しても、上司たちの争いは終わる気配がなかったー-

Happy End

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