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愛の試練編 加賀1話

サトコ
「···絶対、それ以上こっちに近づかないでくださいね」

加賀
誰にモノ言ってんだ

サトコ
「あ、あなたです···!加賀警視!」

加賀
チッ···生意気な口ききやがって
言われなくても、テメェになんざ近づかねぇ

(···無理。無理無理無理。絶対無理)
(やっぱり何があっても、この人だけは無理···!)

ーー私は、この男が嫌いだ。

一カ月前。

サトコ
「はぁぁ~~~···」

仕事が終わって加賀さんの家に着くなり、玄関で崩れるように抱きついた。

加賀
······

サトコ
「加賀さん···はあー、加賀さん···」

加賀
うるせぇ

サトコ
「加賀さん···3日ぶりの加賀さん···」

加賀
鬱陶しい。離れろ

サトコ
「無理です···あと10分」

加賀
長ぇ。ふざけんな

サトコ
「本気なのに···」
「すーっ、はー···加賀さんの匂いだ···」

加賀
犬か

サトコ
「犬ですよ。分かり切ってることじゃないですか」

加賀
······

サトコ
「嘘です!嘘うそ!犬じゃないです、人間です!」

加賀
······

(危ない···!いつも犬扱いされてるから、なんの疑問も持たず受け入れるところだった)

自分の中の『加賀さん成分』が枯渇していたせいで、いくら押し退けられても離れられない。

サトコ
「職場では津軽さんや銀室長の目があってあんまり話せないし」

加賀
当然だ

サトコ
「わかってます。私だって分かってるんです···そういう仕事だってものは」

(私が公安課に配属された直後の『接触不可』によりは、少しマシになったけど)
(あいさつしても無視だし、目は合わせてくれないし···ほんとひどい···好き···)

サトコ
「話したいことがありすぎて、今日一日じゃ終わらないと思うんですけど」
「···ラブレター書いてもいいですか」

加賀
頭湧いてんのか

サトコ
「だって、想いは常に伝えていきいじゃないですか」
「触れ合えない時間で積もりに積もったこの感情を吐き出したいんです!」

加賀
日記にでも勝手にしたためとけ

サトコ
「加賀さんのために書きたいんです!」
「そして会えない間、それを読んで私のことを思い出してもらうんです···!」

加賀
散れ

首根っこを掴まれ、ぽいっと投げ捨てられた。

サトコ
「なんでですか!」

加賀
一生そこにいろ

サトコ
「嫌です!入りますよ、私は!加賀さんの家に!」

返事をくれないまま、加賀さんはキッチンへと消えて行った。

(相変わらずつれない···こんなに好きなのに、完全に一方通行···)

その背中を追うように、リビングに向かった。

食卓テーブルのイスに座ると、バッグから取り出した便せんに加賀さんへの想いを綴る。

サトコ
「『初めて加賀さんから命じられたのは、忘れもしません。“ 奴隷になれ ” でしたね』···」
「···今思い出してもひどいです、これ!」

加賀
うるせぇ
···ただの『奴隷』じゃねぇ。『専属奴隷』だ

サトコ
「あっ、そうそう、そうでした!」
「···そっちの方が、もっとひどくないですか?」

(っていうか、そんな些細なこともまで覚えてくれてるなんて···あ、愛されてる?な···)
(ん?この匂いは···)

キッチンから戻って来た加賀さんの手には、ふたつのお皿。

サトコ
「カレー···!加賀さんが作ってくれたんですか?」

加賀
昨日の余りだ

サトコ
「夜食にカレーなんて最高···!嬉しいで···す···?」

目の前に置かれた皿をよく見ると、野菜が見当たらない。

サトコ
「おかしいな。お肉はあるのに···溶けた?」

加賀
黙って食え

サトコ
「···加賀さん、もしかして野菜入れてない···とかですか···?」

加賀
必要ねぇだろ

サトコ
「ありますよ!野菜の甘みがあってこそカレーが生きるのに!」
「お肉ばっかりカレーなんて、そんなの邪道···」

加賀
文句あんなら食うな

サトコ
「いたたたた!加賀さん、指が頭にめり込んでます!」

頭を鷲掴みにされて、みしみしと頭蓋骨が不穏な音を立てる。
ようやく解放され、大人しく肉ばっかりカレーを頬張った。

サトコ
「うう、痛い···美味しい···」
「加賀さんって、実は料理上手ですよね。野菜を使わないのが玉に瑕ですけど」

加賀
このくらい、誰でも作れるだろ

サトコ
「こんなに美味しいカレーはそうそう作れませんよ」
「初めて会った時は絶対料理なんてしないと思ってたから、意外です」

(そういえば公安学校時代、食堂のおばちゃんに頼まれて定食を持って行ったことがあったっけ)
(あの時の加賀さん、野菜全部残してたんだよね)

サトコ
「ふふ···」

加賀
気色悪ぃ顔すんなって言ってんだろ、いつも

サトコ
「ちょっと、昔のこと思い出してたんです。可愛い思い出し笑いじゃないですか···」

加賀
図々しい

サトコ
「へへ。ご馳走になったので、後片付けは私がやりますね」

カレーを食べ終えて食器を洗っていると、ソファに座った加賀さんが何か読んでいるのが見えた。

(···まさか!?)

サトコ
「ちょっ、加賀さん!なんでラブレター見てるんですか!?」

加賀
どうせ寄越すもんなんだろ

サトコ
「まだ書きかけなんです!ダメです、読まないでください···!」

駆け寄った私の身体を抱き留めるように深く口づけて、加賀さんがゆっくりと唇を離す。

加賀
喚くな

サトコ
「だ、だって···」

加賀
黙れって言ってんだ

さらにキスは続き、甘く舌が絡みつく。
口内を味わうようなキスを受け止め、吐息を交わらせているうちに身体の力が抜けて行った。

(もう···こんなキス、ずるい···)

サトコ
「私ばっかり好きみたい···」

加賀
そう思うんなら、そうだろうな

サトコ
「うぐぅ···」

(この人は片想いなんて一生ないんだろうな···!!)

反論できなくなった私を自分の脚の間に座らせて、加賀さんは片腕で私を抱き込んだ。

加賀
『加賀さんへ。毎日お仕事お疲れさまです。加賀さんの仕事ぶり、すごく尊敬しています』

サトコ
「ま、まさかの音読!?」

加賀
『でもいつも意地悪で魔王で、たまに本気で命の危険を感じることもあります』
『できればアイアンクローと罵倒は、3割減でお願いできたら嬉しいです』
···なんだこりゃ

<選択してください>

ラブレターです

サトコ
「どこからどう聞いてもラブレターですよね?」

加賀
テメェは本当に義務教育終えたのか

サトコ
「わぁ、新しい罵られ方···」

(思いのたけを込めて書いたのに、ラブレター認定してもらえなかった···)

嘆願書です

サトコ
「まあ···何かと言われたら、嘆願書ですね」

加賀
ラブレターとやらはどこ行った

サトコ
「最初はラブレターを書いてたつもりだったんです···でもいつの間にか嘆願書に」
「あ、でもラブレターと同じくらい気持ちは込めましたから」
「っていうか、ラブレターですそれはもう!」

加賀
「なんなんだ」

クレームです

サトコ
「···クレーム?」

加賀
百億年早ぇ

サトコ
「わーっ、破り捨てないでください!一生懸命書いたんですよ!」

加賀
やり直しだ

サトコ
「リテイク···?」

身体を密着させながら、加賀さんはさらに続きを読もうとする。
腕の中で必死に振り返り、便せんに手を伸ばした。

サトコ
「もう、一旦終了です!続きはまた後日!」

加賀
続きなんざねぇ。これで終わりだ

サトコ
「それなら、攻めて最後まで書かせてください···!」

加賀
必要ねぇ

サトコ
「私の加賀さんへの想いは、こんなもんじゃないのに···」

加賀
くだらねぇこと考えやがって

便せんをぽいっとテーブルに投げて、加賀さんが私の肩に腕を乗せる。
何度も何度もキスが降ってきて、他のことは何も考えられなくなった。

サトコ
「···もう、なんでもいいです。加賀さんを感じられるなら」
「アイアンクローでも罵倒でも、死でも」

加賀
勝手にくたばるな

何度目かのキスで、ソファに押し倒される。
そのまま、加賀さんしか感じられない夜が始まったーーー

翌日、津軽班の捜査会議が行われた。

津軽
テレビでは連日、江戸川逮捕の報道ばっかりだね

サトコ
「相当な影響力があった人でしたから···」
「核融合エネルギーは今のところ頓挫状態ですけど、他の政党が狙ってるそうです」

次世代エネルギーを手中に収めれば、その政党は一躍大躍進を図れるだろう。
ただこれまで、核融合エネルギーにおいそれと手を出そうとする政党はなかった。

(それは、江戸川が他の政党にとって恐れられていたから)
(でも彼がいない今、核融合エネルギーは日本の覇権のような存在になってる···)

津軽
あのエネルギーを狙う数ある政党の中で、一番危険なのが···鈍繰(ドングリ)政党

百瀬
「···ドングリ党」

サトコ
「なんだか···可愛い名前ですね」

津軽
やってることはえげつなすぎて、可愛さの欠片もないけどね
ウチ指定のテロリスト “ P(ピー) ” と繋がってるって噂もある
目的のためなら、手段は問わない。面倒な政党だよ

サトコ
「じゃあ、今回の私たちの任務は···」

津軽
ドングリがピーと繋がってるって証拠を得ること

(ドングリがピーと···)
(真面目な仕事のはずなのに、なんとなく力が抜ける···)

会議が終わり、廊下に出るとーー

(···あ!)
(加賀さんだ···!!)

姿を見られたのが嬉しくて、遠くから両手を前に突き出した。

(パワーを···!加賀さんパワーをもらいます···!!)
(今回の捜査が上手く行くよう、頑張···)

津軽
どしたの。俺と手を繋ぎたいの?ハイ

サトコ
「パワーに異物混入するのでやめてください!」

津軽
異物混入!?

加賀
······

東雲
どうしたんですか

加賀
···寒気がした

東雲
へぇ、風邪ですか?うつさないでくださいね

BL特集

ひとまずこうして、津軽班は次の仕事のために動き出した。
そしてこの時の私は、
まさか加賀さんに、一生ないと思っていた『片思い』をさせてしまうなんて。
少しも思っていなかったのだった。

to be continued

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