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仕事中のキスはNG

サトコ
「ストーップ!」

津軽
······
何でよ

両手で津軽さんの口元をブロックすると、くぐもった声が手のひらに響いてくる。
津軽さんと恋人同士になってから、度々繰り返されている攻防戦。

サトコ
「何度も言ってますが、場所が問題なんです!」

津軽
だけど、それじゃ俺のスタンプカード全然貯まらないじゃん

サトコ
「知りませんよ。津軽さんが勝手に作っただけじゃないですか」

津軽
ウサちゃんが勝手にスタンプ制度始めたからでしょ

サトコ
「う···」

正論をぶつけられている間に、私の手のひらにはフーフーと湿った吐息が吹きかけられている。

(く、くすぐったいっ)

津軽
でさ?このスタンプカードがいっぱいになったら、どうなるんだっけ?

サトコ
「し、知りません!」

口を押さえられているせいで、ジリジリと壁に追い詰められる。

サトコ
「それに···最近、気付いてるんですからね」

津軽
何に?

間近にある目が細められ、探るような目を向けられた。

サトコ
「私に雑用を押し付けたいときに、そういうことしてきませんか?」

津軽
へえ~···

津軽さんの眉がぴくっと動いた。
強い力で手首を抑えてきた彼は、何かスイッチが入ったように見える。

津軽
そんなふうに思われてるなんて心外だなー
俺は俺の彼女に純粋にキスしたいだけなのに
そんな下心があると思われてるなんて···

長い睫毛を震わせながら、今度は自分の手でその口元覆ってくる。

サトコ
「だから、それは···っ」

津軽
大体、そんなあれこれ考えてキスってするもん?
好きだから、好きって思った時にキスするんでしょ?

サトコ
「~~~っ」

(そんな好き、好きって···!)
(こんなところで連発しないでください!!)

珍しく真剣な眼差しと声で言われれば、心臓が脈打つ。

津軽
耳まで真っ赤。照れてるの?

サトコ
「そ、そういうわけでは···っ」

(照れてるけども!)

津軽
恥ずかしいなら、こうしてあげるよ

サトコ
「え···」

視界が大きな手で覆われた。

津軽
これならいい?

サトコ
「あ、いや···」

津軽
しー、あんまり声出してると気付かれちゃうよ

暗い視界に戸惑っているうちに、距離が縮まる気配がする。
唇に吐息がかかるのを感じ、思考が停止しそうになった···けれど。

(ここは警察庁内!)

両手でパンッと軽く津軽さんの頬をつかまえて遠ざけた。

サトコ
「わ、私たちの恋人らしさに、こういうのは入ってません!」

津軽
そうくる?

小声で抗議すると、やや不満そうに唇を尖らせた。

(こういう意外と子供っぽい顔に、ときめいてるなんて)
(絶対に言えない!)

津軽
カウントするとかしないとか、あれだけこだわってたくせに
キスが恋人らしさに入らないって、どういうことよ

サトコ
「ちょっ!おでこグリグリしないでっ!いだだっ」
「キスが問題なんじゃなくて、場所が問題なんです!」
「仕事と関係ない場所だったら···私だって、いくらでもしたいですよっ」

(···って、それこそ職場で何言ってるの!)

サトコ
「し、失礼しますっ。午後の仕事の準備をしてきます!」

真っ赤になった顔を隠すように、津軽さんの横をすり抜けた···。

【カレ目線】

津軽
······

(いくらでもしたいって···え?あれ、本音だよな?)
(俺を惑わすためにわざと言ったとか···俺を追い詰めるドS属性に目覚めたとか?)
(周介くんや兵吾くんに妙なこと吹き込まれてないだろうな!?)

油断できない公安学校組の面々が頭を過っていく。

(職場恋愛なら、目を盗んでキスくらいいいと思うけどね)
(仕事に支障がないなら)
(とはいえ、ウサはまだ公安としては半人前のさらに半人前くらいだし)
(線引きして頑張りたいって気持ちもわかるよ)

百瀬尊
「津軽さん、給湯室で突っ立って、どうしたんですか?」
「タバスコ切れてます?」
「絶対に切らすなって言っといたのに、あいつ···」

モモがデスクに戻ったウサをギロリと睨む。

津軽
タバスコならストックあるから大丈夫
···で、モモの用事は?

百瀬尊
「今週末の捜査の件なのですが、ターゲットの隣室、押さえられました」

津軽
さっすがモモ。予約半年待ちの旅館でしょ?
頑張ったね

百瀬尊
「当然です」
「いつでも令状とれるように詰めて、連絡待ってます」

津軽
モモ、来ないの?

百瀬尊
「こういうところなので」

モモがスマホの予約画面を見せる。

(山奥の隠れ家的な人気温泉旅館スイート···客室露天風呂付き···?)

百瀬尊
「男2人で行くと、かえって目立つかと」

津軽
そかそか。じゃ、ウサ連れてくか~

百瀬尊
「······ですね」

津軽
え、今、間がなかった?

百瀬尊
「いえ」

(ウサと客室露天風呂ねぇ)

まったく意識しないと言ったら、嘘になる。

(······)
(いやいや、仕事だし、まだ俺たちはそんなんじゃないし)
(···ま、どうにかなるでしょ)

旅先で待つのは、露天風呂の甘さか、それ以上の大きな第一歩かーー

Happy End

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