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買い物デート(津軽目線)

ウサと帰りが一緒になった日。
残業でお互い疲れてたので、コンビニで適当におかずを買ってウサの部屋で一緒に食べた。

(ウサって、ちゃんと炊いたご飯冷凍してるから偉いよな)

最近は弁当もレトルトもそこそこの味だけど、炊いたご飯は違うって何年かぶりに気付いた。

(ていうか、基本味って刺激があるかないかの話だったけど)
(ウサと食べると、ちょっとした味も感じられるっていうか···)
(あれか?料理人が出汁の違いがわかるとか、そういう境地に達しつつあるのかな)

ウサは台所で後片付けをしている。

(···いつまでも見てられそ)

ソファの背に頬杖をつきながら眺めていると、水道を止めたウサが振り返った。

サトコ
「食べて眠たくなっちゃいましたか?」

津軽
ウサは、そういうタイプだよね

サトコ
「···なので張り込み中は、おなか一杯にならないように気を付けてます」

ウサがコーヒーを淹れて持ってくる。
自分のミルクコーヒーと俺のレモンコーヒー。

(俺が部屋に来てもいいようにって···)

彼女の冷蔵庫の中身に変化が起きていることは知っていた。

(一緒に住むなら、俺の部屋じゃなくてウサの部屋がいい)
(狭い方が、いつでも見つけられる)

最近、気が付いたことがある。
ウサと部屋にいる時、俺は気が付けば彼女をいつも目で追っている。
今もーー

津軽
これ、もう読んだの?

サトコ
「あっ」

ウサの視線がテーブルにある雑誌に移り、彼女が手を伸ばすより先に取った。

津軽
ファッション誌?新しい服欲しいの?

サトコ
「少し···違う方向性とかも研究してみようかなって」

横に座るウサはソワソワと落ち着かない。
彼女が開いたページには折り目がついていて、それは俺が以前に好みかもと言った服の系統だった。

(ウサも彼氏にして欲しい格好とか、あんのかな)

津軽
ね、今度の休み、服買いに行かない?

サトコ
「いいですけど···」

津軽
俺のことウサ好みにしてよ

サトコ
「!?」

目を丸くして口をポカンと開けた顔が可愛くて。
その口を閉じさせるために、軽く唇の端にキスをした。

次の休み、ウサを連れて大型ショッピングモールを訪れた。

津軽
今日は俺をマネキンだと思っていいからね

サトコ
「どんな格好させても文句ないってことですね?」

津軽
どんな服でも似合うからヘーキ

サトコ
「とびきり似合うのを見つけるんです!」

妙に張り切った様子でウサはフロアマップをチェックしながら歩いている。

(デートなわけだし手くらい繋いで···)
(···って、足早過ぎない!?)
(手を繋いでウィンドショッピングとかって概念はないの···?)

空ぶった手を眺めていると、先に行きすぎたことに気付いたウサが振り返った。

サトコ
「津軽さん?気になる服でもありました?」

(俺が気にしてんのは、君のその届かない手だけどね)

津軽
いや。今日は俺の好みじゃなくて、ウサの好みで決める日でしょ

サトコ
「まずはあのお店から試してみましょう!」

津軽
はいはい

(よく考えたら···俺がウサ好みかどうかって不明なんだよな)
(顔がいい=好みの顔ってわけでもないだろうし)
(好きな恰好したら、もっと好きになってくれたりすんのかな···)

店を何軒回ったのか···まさに着せ替え人形のごとく、いくつもの服を合わせたが···

津軽
結局、1着も決めてないね

サトコ
「き、決められなくて···」

俺より先にヘトヘトになったウサを連れ、カフェで休憩することにした。
ドリンクの上の生クリームを一気に飲んだウサが、ふーっと癒された顔で頬を緩める。

(こういう顔、仕事じゃなかなか見られないよな)

俺は服よりもウサを見てる。
本人は気付いているのかどうか、分からないけど。

津軽
ウサは、どれが良かったの?

サトコ
「どれも良かったけど、どれも違うというか···」

津軽
俺の顔に勝てる服はなかったってこと?

サトコ
「ちがっ···くはないですけど」
「何着てても···結局、感想が好き···って···それしか出て来なくなる、ので···」

津軽
······
·········

(この子、なに突然特大の爆弾落としてんだ···?)

サトコ
「···口、半開きになってますよ?」
「私の語彙力のなさに呆れました!?」

(語彙力なんて必要ねぇ)
(好き、それだけで···そういうのでいいんだよ!)

津軽
いや、ほら、さ、ね?

心の乱れを落ち着けるために、ドサッと砂糖をぶっこんだコーヒーを一口飲む。

津軽
それでも1着は選んでよ。せっかく来たんだから

サトコ
「はい、頑張ります!」

デートの思い出に···は、何となくことばゆくて言えなかった。

サトコ
「津軽さんに似合う服、絶対見つけますね!」

津軽
変なのでもいいよ。ウサとのデートでしか着ないし
全面に虎とか豹とかの顔がバーンって書いてあるやつにする?

サトコ
「大阪のおばちゃんですか···」
「津軽さんって、放っておくと柄物に流れる傾向がありません?」

津軽
そんなことないでしょ

サトコ
「顔の良さの邪魔をしないように、シンプルなものでいきましょう!」

なんでもいいよ、ウサがそうやって楽しそうに笑ってるなら。
どんな服だって、俺には1番のお気に入りになるんだから。

Happy End

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