【教場】
千葉
「サバイバル訓練?」
それはある日の講義後、東雲教官から知らされた。
東雲
「そう。キミたちの野外訓練が決まったから」
「まあ、サバイバルって言っても、無人島でやるとかそういうのじゃないらしいけど‥」
男子訓練生A
「もしかして、サバゲーの方ですか?」
鳴子
「サバゲー?」
東雲
「サバイバルな状況を想定した、疑似訓練みたいなものだよ」
「最近は、個人的にそういうのを楽しむサバイバルゲームが流行ってるらしいしね」
(サバイバルゲーム‥なるほど、それで『サバゲー』なんだ)
(ゲーム形式なら、普段の野外訓練よりは楽しめるのかな)
男子訓練生B
「俺、サバゲーってやってみたかったんだよな」
男子訓練生C
「俺も!でもあれって、準備とか場所とか考えると、なかなか手が出せないんだよな」
東雲
「なんか勘違いしてるみたいだけど、あくまで “訓練” だから」
「ゲームみたいに楽しめる、なんて甘いこと考えないようにね」
『訓練』の部分を強調して、東雲教官がニヤリと笑う。
全員が、その黒い笑みにゾクリと嫌な予感を覚えた。
東雲
「今回は、どうやってキミたちをいびろうかな‥」
「ただでさえ行きたくないのに、オレたちまで強制参加なんだから‥そのくらいは許されるよね?」
鳴子
「東雲教官、相当イラついてるみたいだね‥」
千葉
「強制参加って言ってたからね‥」
サトコ
「うん‥普段からこういうの、『怠‥』って敬遠してるもんね‥」
東雲
「とにかく、そういうことだから」
「詳しいことは、あとでほかの教官から話があると思うよ」
そう言って、東雲教官が教場をあとにする。
でも出て行く直前、振り返って満面の笑みを浮かべた。
東雲
「じゃあ、キミたちも楽しんでね」
(キミたち『も』って言った‥!東雲教官、私たちに嫌がらせして楽しむつもりだ‥!)
鳴子
「ねえ、サトコ‥今回の訓練って、私たちも行かなきゃいけないのかな」
サトコ
「どうかな‥サバイバルって言われると、ちょっと不安だよね」
(女子は免除‥なんて、甘い学校じゃないことはわかってるけど)
(あとで教官室に行ったとき、念のために聞いてみようかな)
その日の放課後、全ての講義が終わると同時に黒澤さんが教場に入ってきた。
黒澤
「みなさーん、今日もお疲れ様でした★」
「今日一日頑張ったみなさんに、オレから朗報です!」
(朗報‥?黒澤さんのこういうのは、今まであんまりいい思い出がないからなぁ‥)
不安を感じていると、案の定ホワイトボードに “サバイバル野外訓練” と書いた。
黒澤
「僭越ながら、この黒澤がみなさんにご説明します!」
「あ、もちろん女子訓練生も強制参加ですからね~」
鳴子
「やっぱり‥」
サトコ
「でも、なんとなくそんな気はしてたよね‥」
黒澤
「はいはーい、いいですかー」
「今回の訓練は、射撃能力や瞬発力、洞察力を身につけることが目的です」
「訓練は、必ずふたり一組、ペアで行ってもらいます」
ペアで、という言葉に教場がざわつく。
男子訓練生A
「じゃあ、身体能力が高いヤツと組んだ方が有利ってことだよな」
黒澤
「もちろん、勝手にペアを組むことは許されませんよ~。ペア決定はクジで行います!」
その瞬間、一気にがっかりムードが漂う。
黒澤
「それぞれのチームには、サバゲー用のエアソフトガンと普段訓練で使う拳銃が支給されます」
「どっちを使うかは、個人の自由です。もちろん、両方使ってもOKです」
「どちらも、中はカラーボール仕様になったBB弾ですからね~。実弾の使用はなしですよ」
(実弾の使用はなし‥当たり前のことをサラッと言う辺りが、なんか怖い‥)
黒澤
「カラーボールなので、BB弾が直撃したら身体にペンキが付着します」
「その時点で、その人はアウトです。ついでに言うと、ペアの人もアウトです」
「どっちかだけが生き残ればいいわけじゃないので、連係プレーも大事ですよ★」
千葉
「連係プレーか‥確かに、サバイバルの中で生き残るには大切なことだね」
鳴子
「うん‥でも普段からの信頼関係もあるし、誰とペアになるかが大事だよね」
黒澤
「今回は、どこかにお宝が隠されています。それを見つけたペアが優勝です!」
「ちなみに、お宝が何かは最後まで秘密ですからね~」
楽しそうな黒澤さんとは裏腹に、訓練生のテンションは下がりっぱなしだ。
(サバイバル訓練か‥将来のことを考えたら、きっと大事なんだろうけど)
(でも、教官たちも参加するなんて‥無事に済む気がしない)
黒澤
「どんなつらい罠、卑怯な戦略にあったとしても、みなさん協力しあって乗り越えてくださいね★」
黒澤さんの笑顔にうすら寒さを覚え、全員が息を呑んだ。
男子訓練生A
「なあ‥もしかして、教官対訓練生じゃないよな?」
男子訓練生B
「教官たちがペアを組んだら、太刀打ちできないだろ‥」
黒澤
「ご安心を!この黒澤を含め、誰と組むかはクジ次第!」
「もちろん教官同士もあるかもしれませんが、可能性は限りなく低いですから」
サトコ
「って‥黒澤さんも参加するんですか!?」
黒澤
「もちろん!」
「いつでもアナタのそばに‥黒澤透でっす★」
(黒澤さん、最近は学校にいる時間の方が長いんじゃ‥!?)
(今までいろんな野外訓練してきたけど、こんなに先が見えない恐ろしい訓練、初めてだよ‥)
【訓練場】
そしてあっという間に、訓練当日。
石神
「全員揃ったな。ではこれより、ペアを決めるため、クジ引きを行う」
「まずは大きく、グーチーム、パーチームに分かれてもらう」
鳴子
「どっちのチームに行くかは、最初から決められてるみたいだね」
サトコ
「うん‥鳴子、同じチームになれるといいね」
後藤
「ちなみに、グーチームは俺と加賀教官、難波室長」
「パーチームは石神教官、颯馬教官、東雲教官だ」
サトコ
「室長も参加するんですか?」
颯馬
「ええ、人数が足りないので」
加賀
「テメェら‥分かってるだろうが、足を引っ張るゴミは土に埋める」
「二度とシャバには帰れねぇ覚悟で挑め」
加賀教官の言葉に、全員が震えあがった。
鳴子
「加賀教官とだけは、ペアになりませんように‥」
千葉
「石神教官も厳しいからな‥」
男子訓練生A
「ああ‥訓練終了の前に命を落としてる可能性が高い‥」
男子訓練生B
「なあ‥もし俺が加賀教官とペアになったら、定期的に探しに来てくれないか‥?」
東雲
「あーあ、楽しみだな。どんな罠仕掛けようか」
加賀
「歩、即死系はNGだ」
東雲
「やだな兵吾さん、わかってますよ」
「じわじわ体力を奪う系にしておきますから」
(今の会話、何‥!?これ、本当に訓練なの!?)
(まさか、出来の悪い訓練生を間引くための闇の訓練なんじゃ‥!?)
鳴子
「あのふたりの教官は例外として‥」
「後藤教官も素敵だけどちょっとストイックだし、やっぱり颯馬教官が良いな~」
千葉
「難波室長とペアになっても、色々と勉強になりそうだよね」
なんだかんだ言って楽しそうなみんなを眺めながら、教官たちを振り返る。
(誰とペアになるんだろう‥訓練生同士って可能性もあるし)
(でも、できれば‥やっぱり、カレと一緒がいいな‥)
その時、チーム分けを発表していた石神教官から名前を呼ばれた。