カテゴリー

欲しがりカレシのキスの場所 黒澤2話

引きずり込まれるようにしてやってきたのは使われていない会議室だった。

黒澤
さぁ、聞かせていただきましょうか!

じりっと距離を詰めてくる透くんに、痛い足をずりずりと後ろに引く。
そうして気付けば、部屋の隅の狭い空間にずいずいと詰め寄られていた。

(に、逃げられない···!)

黒澤
オレに隠してること、ありますよね!

サトコ
「いや、だから隠してることなんて···」

黒澤
そんなはずありません!だってさっきもオレに冷たい態度を取ってたし!
その石神さんへの資料だってそうです
別に急ぎで渡す必要もなかったのにオレを避けようとしたじゃないですか~

サトコ
「それは···」

(靴擦れで足が痛くて余裕がなかっただけなんだけど···)

サトコ
「あ、あのね、透くん···」

黒澤
今日は朝からそうです!
オレが話しかけようとしたら、すぐ別の人と2人っきりになるし!

サトコ
「それはたまたま···」

黒澤
給湯室で颯馬さんと話してるな~、と思ったら
なんかその後ニコニコしながら出て来るし!一体何話してたんですか!

サトコ
「だからそれも···」

黒澤
もう透くんのことなんて知らない!ってやつですか?
そうは問屋が卸しませんよ!
公安課のスーパールーキー黒澤透から逃げようたって、地の果てまで追って···

サトコ
「ストーップ!」

黒澤
ぐぅ···!

透くんのネクタイを掴み、そのままキュッと締め上げた。

黒澤
サトコさんからの愛が重くて苦しくて嬉しい···

サトコ
「一度落ちついて私の話を聞いてください!」

さらにぎゅっと締めると、透くんはバシバシと私の手を軽く叩いた。

黒澤
わ、分かりました!ごめんなさい、聞きます···!

ようやく静かになった会議室で、私はひとまずネクタイから手を離した。
透くんは先程の勢いを失くし、しゅんとして形の崩れたネクタイを直している。

サトコ
「いろいろ勘違いしているようなので順番に説明しますけど···」
「とりあえず、隠してることはありません」

黒澤
はい···

サトコ
「さっき透くんにちょっと冷たく当たっちゃったのはその···靴擦れが痛くて···」

黒澤
靴擦れ?

サトコ
「そうです」

(本当は情けないから言いたくなかったけど···)

黒澤
なんだ~どおりで歩き方がぎこちなかったんですね

サトコ
「それが分かってたなら気付けたんじゃ···」

黒澤
じゃあ、ちょっと見せてください

サトコ
「え?」

次の瞬間、ふわりと足が宙に浮く。
透くんが私の身体を抱え上げ、そのまま会議室のテーブルの上に座らせた。

サトコ
「こ、こんなところに座るのは···!」

黒澤
大丈夫ですよ。バレなければ
それより、靴脱がせますよ

サトコ
「え、ちょっと待って!」

透くんの手が靴に添えられる。
咄嗟にスカートの裾を抑えるも、彼は気にする風もなく靴を脱がせていった。

黒澤
あー確かに赤くなってますね

自分でもその時、ようやくちゃんと足の状態を確認した。
踵は靴と擦れているところが赤く、皮が剥けそうになっている。

黒澤
このくらいなら消毒して、絆創膏を貼っておけば大丈夫ですね

サトコ
「はい···」

黒澤
ってわけで、手当てするのでストッキング脱いでください★

サトコ
「何でそうなるの!?」

黒澤
だってキズを見つけたのはオレですし~
今ちょうどタイミングよく応急手当セットを持ってるのもオレですし~

透くんが胸ポケットから絆創膏やら消毒液やらを取り出して見せる。

サトコ
「それを貸してもらえれば自分でするので···!」

黒澤
もしかして脱ぐところを見られるのが恥ずかしいんですか?
それならオレ、ちゃんと後ろ向いてますから安心してください!

サトコ
「足なんて、自分で十分手当てできる場所ですから!」

黒澤
···そこまで言うなら分かりました

サトコ
「え、本当?」

期待を込めながら透くんを見ると、彼はふんと胸を張った。

黒澤
これ以上サトコさんに痛い思いをさせるのは不本意なので
オレがサトコさんを更衣室までおぶって行きましょう!

サトコ
「いいよ、そんなことしなくて!」

あっけなく私の期待は崩れ去る。
透くんは応急手当セットとおぶるそぶりを見せながら、にっこりと笑った。

黒澤
どっちにします?
オレに今ここで手当てされるのと、庁内をおんぶされて自分で手当てするの

サトコ
「何でその2択に···!」

しかし、どちらかを選ぶまでは解放しないという彼の強い意志を感じる。
頭を抱えそうになりながらも、渋々口を開いた。

サトコ
「ここで、お願いします···」

黒澤
了解です!

宣言通り、透くんはこちらに背を向けたまま待っていてくれた。
素足になった足を透くんに差し出すと、彼は恭しく触れてくる。

黒澤
ちょっとしみますが、我慢してくださいね

サトコ
「大丈夫です」

透くんが傷口に消毒液をかけてくれる。
テキパキと手当てをしてくれる彼は、なぜか少し嬉しそうだった。

サトコ
「さっきの誤解の続きだけど」

黒澤
誤解?

サトコ
「透くんを避けてたつもりは全然ないからね」

黒澤
あぁ

サトコ
「なんだか今日はやけに津軽さんからのパシ···いや、お遣いが多くて」

黒澤
そうみたいですね

サトコ
「あと、給湯室で颯馬さんと話してたのは靴の話だけで」
「別に特別な話とかも全然してないし···」

黒澤
本当ですか〜?

サトコ
「ここまでしてもらって嘘なんてつかないよ」

黒澤
・・・はい、手当て終わりました

透くんがパッと手を離すと、傷口には綺麗に絆創膏が貼られている。
そうやって傷口を守られているだけで、随分と痛みが引いたようだった。

サトコ
「ありがとうございます」

黒澤
これで退庁までは大丈夫じゃないですか?

サトコ
「うーん、でもやっぱり今日はもう前の靴に履き替えておこうかと」

黒澤
確かにその方が足にはいいかもしれませんが
いいんですか?

サトコ
「え?」

黒澤
あのDVDを見て欲しくなったんですよね?

サトコ
「!」

(どうして透くんがパシフィック8のこと知って・・・!?)

黒澤
レンタルした翌日に靴買いに行っていたじゃないですか

(怖っ!どこまで私の動き知られてるんだろう・・・)

思わず言葉を失っていると、透くんはなぜか照れたように体をモジモジさせる。

黒澤
他人からの指摘を素直に受け入れる
そんなサトコさんの姿勢はとても良いと思いますよ

サトコ
「鳴子のことまで・・・!」

(怖・・・っ!!)

妙な心臓の高鳴りを宥めようと、自然と胸元に手を置いていた。
透くんはそんな私の足をそっと手で掴むと、足の甲へ自らの顔を寄せる。

サトコ
「えっ」

驚きで短く言葉を発したまま固まってしまう。
透くんの唇が静かに私の足の甲へ口付ける。
柔らかな感触からじわりと熱が広がっていき、頭の先まで駆け抜けていく。

サトコ
「こっ、ここ庁・・・」

黒澤
サトコさんの足が綺麗で、うっかり★

サトコ
「うっかり、じゃないです!」

黒澤
こうしていると、オレだけのシンデレラって感じでいいですね

サトコ
「良くないですよ・・・!」

黒澤
シンデレラならそれらしく、靴も履かせてあげますよ

サトコ
「い、いいです!自分で履きますから!」
「それに、ストッキングも履かなきゃですし!」

黒澤
じゃあ、ストッキングから履かせてあげましょうか?

サトコ
「結構です!」

危うく透くんに取られそうになるストッキングを掴む。
それでも靴は取られ、履かせたくて堪らないという彼の瞳に根負けしてしまうのだった。

黒澤
ぴったりですね

サトコ
「それはまぁ、私の靴ですから・・・」

黒澤
感動が薄いですね
まぁ、塩対応シンデレラも斬新でいいと思います!

(なんでもアリじゃん・・・)

そんな呟きが喉まで出かけるも、嬉しそうな透くんにそれも引っ込んでしまうのだった。

to be continued

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする