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欲しがりカレシのキスの場所 津軽1話

綺麗になるために女性誌を読み漁り、目に留まったのが下着のコラム。
『日本人の女性の多くは本当に自分に合ったブラを着けていない!』というもの。

(サイズ測ったのなんて、それこそ高校生の頃が最後だったような···)
(それに海外の下着って、すごく可愛いのもあったし···)

勇気を出して訪れたのは、輸入下着も扱うランジェリーショップ。

佐々木鳴子
「サトコ、これ見て!」

付き合ってくれた鳴子が、やや興奮気味に手招きをした。
その手にあるのは、デザインが可愛らしいアメリカのブラ。

サトコ
「わ、可愛いね!」

佐々木鳴子
「可愛いけど、それよりこれ···」

サトコ
「ん?」

鳴子が触れさせたのは、ブラに入ってるパッド。

サトコ
「うわ、ぶあつっ!」

佐々木鳴子
「海外セレブの胸は半分以上が上げ底っていうのも、あながちウソじゃなかったのかもね」

サトコ
「すごいね···」

(こんなコンクリートみたいなのが下に入ってるんだ···)

店員
「そちら、とても人気のあるお品なんですよ~」

佐々木鳴子
「可愛いですもんね~」

サトコ
「でも、パッドがちょっと···厚すぎたりしませんか···?」

店員
「いえいえ。着けてみると、そうでもないんですよ。ぜひ、お試しになってください!」

サトコ
「い、いえ、私は···っ」

佐々木鳴子
「せっかくだから、試着してみなよ」

サトコ
「でも···」

佐々木鳴子
「変わりたいなら、自分から一歩踏み出さないと!」

(そっか···そうだよね。挑戦なくして変化なし!)

サトコ
「じゃあ、これだけ···」

店員
「こちらが試着室になります~」

佐々木鳴子
「私、あっちの方ちょっと見てるね」

サトコ
「うん。あとでね」

店員さんに促されるまま試着室に向かいー-

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(こ、これは···やっぱり寄せて上げ過ぎでは!?)

鏡に映る自分の胸元は、これまでとは格段に違う盛り上がりを見せていた。

店員
「いかがですか~」

サトコ
「可愛いんですが、ちょっと盛り過ぎかなと···」

店員
「そんなことないと思いますよ~。ちょっと失礼しますね」

試着室のドアを開けて、店員さんがストラップの調整をして形を整えてくれる。

店員
「すごくきれいなラインが出ていて、デコルテとの比較でバストがとても美しく見えますよ~」

サトコ
「確かにきれいですけど···」

胸周りのお肉を全部寄せたこともあり、全体的にすっきりしたのは本当だ。

(だけど、目に見えて大きくなった感じが···それとも、気にしすぎ···?)

店員
「お洋服を着るとバストそのものは目立たず、スタイルがますますよくなりますよ!」
「お客様のように引き締まったプロポーションの方には、特におススメです~」

サトコ
「そ、そうですか···?」

(まあ、下着一枚で歩くわけじゃないんだし)
(服を着ればきれいなラインになるかも!)

サトコ
「じゃあ、これ、お願いします」

店員
「ありがとうございまーす!」

(美への一歩を踏み出した···明日からの私は一味違う···はず!)

迎えた、生まれ変わったはずの翌日。
昨夜は髪も肌もいつも以上に丹念にお手入れをして、万全で迎えた今日だけれど。

サトコ
「······」

(時間よ、巻き戻れ···)

津軽
おはよ、ウサちゃん

サトコ
「ひっ!」

津軽
『ひっ』って···

耳の真後ろからかけられた声に、デスクに突撃する勢いでイスを前に引いてしまった。

サトコ
「つ、津軽さん···」

津軽
ひど。人がせっかく爽やかに挨拶してあげてるのに

サトコ
「それは、どうも···」

(津軽さんだけには···津軽さんだけには気付かれるわけにはいかない!)
(知られた日には、何を言われるか!)

胸を隠すように猫背でイスを動かし、なるべく背中を向ける。

(スーツ着たらボタンパツパツで、隠れるどころか胸が強調されてるみたいで···!)

こんな日に限って寝坊し、気付いたのは登庁してからという始末だ。

津軽
···なんでこっち向かないの

サトコ
「それはその、つ、津軽さんの顔は良すぎるので、朝から直視するのははばかれるというか···」

津軽
ふーん···

(早く自分の席に行ってください!)

必死に胸元を隠しながら、立ち去るのをただただ待っていると。

津軽
ねぇ

サトコ
「!」

肩に手を置かれ、ぐっと顔を近づけられた。
鼻先が触れそうな距離に、ひゅっと息を吸う。

サトコ
「な、何でしょうか」

津軽
お・は・よ・う、は?

サトコ
「お、おはよう、ご、ざいま···す···」

津軽
おはよ

とりあえず、それで肩から手が外され解放される。

津軽
ウサちゃん、コーヒー淹れて。タバスコ多めで

サトコ
「私はお茶汲み係ではないんですが···」

津軽
ご褒美に、“ 藁カツオ風味キャンディー ” あげるから

サトコ
「むしろ罰ゲームでは?」

津軽
先にご褒美が欲しいって?ウサちゃんって、結構欲しがりさんだよね

サトコ
「んっ、ぐっ···!」

(どうして津軽さんはこういとも簡単に、人の口に指を滑り込ませることができるの!?)
(そして相変わらず激マズ···)

津軽
コーヒーお願いね

サトコ
「ひゃい···」

先に自称・ご褒美を放り込まれてしまった以上、他の答えはないのだった。

サトコ
「はあぁぁ···」

10時頃、朝の人仕事を終えて、給湯室でお茶を淹れがてら息を吐く。

(朝、津軽さんに顔覗き込まれた時は焦ったけど)
(案外、気にされないものなんだな···というか、私に興味なんてないのか···)

少しばかり胸が大きくなったからといって、公安課の皆さんの反応は特になかった。
とりあえず、ホッと胸を撫で下ろしていると。

黒澤
公安のエース&ホープ!黒澤参上!

サトコ
「え、公安のエースは後藤さんなのでは···」

黒澤
さすがサトコさん!突然のフリにもナイスツッコミ!

(ほんといつもテンション高いな···)

カップを手に給湯室に現れた黒澤さんが、ややっ!とその目を見開いた。

黒澤
今日のサトコさんは···エージェント風ですね

サトコ
「は!?」

(エ、エージェントって···私が『パシフィック8』を観たことは鳴子しか知らないはず!)

サトコ
「どうして、そんなふうに···」

黒澤
ふふ、本当は皆さん、気がそぞろになるくらい気にしてるんですよ
色香に溢れる、今日のサトコさんのことを!

サトコ
「!」

黒澤さんの視線が突き刺さったのは、ボタンが弾けそうな胸元。

サトコ
「こ、これはっ」

黒澤
今まで隠してたなんて···せめて、オレくらいには真実を···

黒澤さんが口元を手で覆おうとした、その時だった。
彼の背後にぬっとあらわれた黒い影。

津軽
ねえ、君、セクハラって言葉、知ってる?

黒澤
つ、つ、つ···つがっ

振り返らないまま、黒澤さんが固まるのが分かった。
面白いくらいどっと汗が噴き出している。

黒澤
今、オレを『君』って···

津軽
ん?

黒澤
お、お願いです!いつもみたいに『透くん』って呼んでください!後生ですから!

津軽
それは、これからの君次第かな~
···百瀬、連れてけ

百瀬尊
「はい」

黒澤
い、いやーっ!

津軽
お前に黙秘権はない。弁護士をつける権利もなければ···

黒澤
後藤さーん!!

(な、何だったの、いったい···)

百瀬さんに連行される黒澤さん。
そしてそのあとをポケットに手を突っ込んでついていく津軽さん。

サトコ
「···まあ、いいや」

(それより!黒澤さんの話は半分にして聞くにしても、この胸、やっぱり目立ってるのかも···)
(やはり、何とかしなければ···!)

遠くで黒澤さんの謎の声が聞こえた気がしたけどー-気のせいということにしておいた。

to be continued

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