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欲しがりカレシのキスの場所 津軽2話

海外の下着に興味を持ち、軽い気持ちで身に着けたのが悪かった。
不自然に盛り上がった胸はスーツに合わず落ち着かない。

(黒澤さんが言ってたことが本当か冗談かは分からないけど)
(これじゃ業務に集中できないし、昼休みに駅ビル行って新しいのを買って来よう)

普通が一番ー-そんな当たり前なことを実感していると。

津軽
······

サトコ
「······」

(津軽さんに見られてる···)
(黒澤さんから何か聞いたりしたのかな。というか、黒澤さんはどうなったんだろう···)

給湯室を最後に、彼の姿は見ていない。

津軽
······

(また、ちらちらと···)
(こういう時に限って、物言いたげな視線だけを送ってきて···)

胸元を見られているわけではない。
けれどー-

津軽
······

(ああ、視線がうるさい···!)
(早く昼休みにならないかな···)

ジリジリとした津軽さんの視線を感じながら、とにかく目の前の書類仕事に集中することにした。

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(12時になった!昼休み!)

時針と分針が重なると同時に席を立つ。

後藤
氷川、今日は早いな

サトコ
「後藤さん、お疲れさまです!」

飛び出すように課を出ようとする私に後藤さんが驚いた顔をしている。

サトコ
「今日はお腹ペコペコでして。はは···っ」

後藤
そうか。そういえば、黒澤を見てないか?

サトコ
「さ、さあ···」

(黒澤さん、まだ発見されてないんだ···)
(無事でありますように···)

さすがに心配になり、心の中でそう願いながら課を後にした。

(急いで買い物すれば、軽く何か食べる時間くらいあるかな)

警察庁を出ればとりあえず周りの視線を意識せずによくなり、気を抜くと。

津軽
ウーサちゃん

サトコ
「ひっ!」

今度は壁のごとく目の前に滑り込んできた津軽さんに悲鳴を上げた。

津軽
君ね、俺のことなんだと思ってるの
ペニー・ワイズ扱い?

サトコ
「ま、まさか!」

脳内にカットインしてきたのは、ホラー映画のピエロ。

(いや、まさにそういう反応をしてしまった···)

津軽さんの端正な顔とピエロ顔が重なり、不覚にも噴き出しそうになる。

サトコ
「···っ」

津軽
行くよ

サトコ
「え···?」

笑いを必死にかみ殺した私に低い声が降って来た。
同時にがっと手首を掴まれる。

サトコ
「行くって、どこに···」

津軽
ランチに決まってるでしょ

サトコ
「!?」

(ランチって、そんな約束してないし!)
(今の私には、その前に行かなければならない場所が!)

サトコ
「今日は食欲がないので、お昼は···」

津軽
お腹ペコペコ、なんだよね?

サトコ
「う···」

(後藤さんとの会話を聞かれてた!?)
(というか、どうしてこんなに神出鬼没なの?)

サトコ
「あの、実は用事があって···」

津軽
近くに美味しいイタリアンがあるって交通課の子に聞いたんだよね
そこ行こっか

サトコ
「いや、だから、その···っ」

手首をつかんでいた手は、いつの間にかしっかりとつなぎ直されている。

(津軽さんと手を繋いでるし!めちゃくちゃ力強いし!)
(ああ、駅ビルがどんどん遠ざかっていく!)

津軽さんが連行ー-もとい連れて行ってくれた先は、とてもとても洒落たカフェレストランだった。

サトコ
「ここ、交通課の婦警さんに教えてもらったんですよね?」

津軽
そうだけど?

(多分、津軽さんとランチに行きたかったんだろうな···)

彼をペニー・ワイズ扱いしてしまった私だけれど。
津軽さんとランチに行きたがっている女性が庁内だけでも山ほどいるのは知っている。

サトコ
「こういうところでランチ、よくするんですか?」

津軽
どうして?

サトコ
「いえ、その···」

毎日違う女性とランチしても、津軽さんなら軽くひと月、ふた月は回ってしまうだろう。

(女の人とランチに言ってるのが気になるなんて···言えない···!)

サトコ
「後藤さんたちはよく満腹軒に行くって言ってたので···津軽さん達はお洒落だなと···」

津軽
ニンニク臭いのは、ちょっとね

(ニンニクより、ひどい匂いのお菓子を平気で食べるくせに···)

そんな話をしているうちに今日のランチパスタが運ばれてくる。

(速攻で食べて走れば、買い物できるかも!)

サトコ
「いただきます!」

津軽
···いただきます

熱々の漁りのスープパスタを必死に食べていると。

津軽
······

熱い視線を感じた。

サトコ
「···津軽さん、全然食べてないですね。猫舌でしたっけ?」

津軽
そんなに嫌なわけ?

サトコ
「はい?」

津軽
顔も見ずに話しもせずに速攻で食べ終わりたいくらい、俺と食べるの嫌なんだ?

サトコ
「そ、そんな、まさか···」

津軽
じゃあ、何でそんなに急いでるの

サトコ
「······」

(ブラを買いに行きたいからです···)
(なんて言えるわけないじゃないですかー!)

津軽
無言は肯定ってこと?そろそろ真面目に傷つくんだけど

本当に津軽さんが傷つくなんて思わないけれど、申し訳なさは出て来る。

(本意ではなかったとはいえ、食事に連れて来てもらったのに失礼な態度だったかも···)

サトコ
「さっき言いかけたんですが、今日はどうしても行かなきゃいけない場所があるんです」

津軽
昼休みに?

サトコ
「はい、昼休みに!」

津軽
どこ行くの

サトコ
「え、いや、それは個人的なことなので、ちょっと···」

津軽
誰かと待ち合わせ?

サトコ
「ノ、ノーコメントで···」

タバスコで赤く染まったスープパスタを箸で食べながらの津軽さんの追求は止まらない。

(どうしてそんなに気にするの!?)

津軽
ここのランチ、デザートも付いてくるから
食べてくよね?

サトコ
「う···」

やや上目遣いで見てくる目は、それ以外の答えは認めないと言っていた。

サトコ
「いただきます···」

津軽
楽しみだね。デザート

サトコ
「······」

パスタをいくら早く食べたところで、ランチにかかる時間は変わらないのだった···。

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津軽
味付け薄かったけど、店の雰囲気はよかったね

サトコ
「ソウデスネ」

津軽
今度ランチ行く時はさー

サトコ
「それより、どうしてまだ着いてくるんですか!」

津軽
どこ行くか教えてくれないからじゃん

サトコ
「昼休み中の行動まで教える義理はありません!」

津軽
冷たいなー
部下を心配するのも上司の務めなんだよ?

サトコ
「ただのストーカーじゃないですか···」

津軽
え、お口なみ縫いして欲しいの?

(完全に人の話を聞かないモードになってる!)
(こうなったら···!)

サトコ
「あ!銀室長!」

津軽
え?

津軽さんの意識が一瞬逸れた隙をついて、全力で地面を蹴った。

津軽
あ、ウサ!

(撒かせてもらいます!)

訓練生時代に培った全ての能力を発揮し、私は津軽さんの前から走り去った。

(何とか津軽さんから逃れることができた···)

息を切らせながら駅ビルに駆け込み、やっと馴染みのある、ごく普通の下着を手に入れた。

(午後の始業まで、あと15分ある···これなら更衣室で着替えても余裕で戻れるよね)

サトコ
「ふう···」

大きな一仕事を終えたような、すがすがしい気分で警察庁の廊下を歩いていると。

津軽
ウサちゃん

サトコ
「ひっ!」

突然背後から両肩を掴まれた。

津軽
俺を置いていくなんて、随分なことしてくれるね

サトコ
「つ、つつつつ、つがっさっ···!」

振り返る間もなく、誰もいない階段の踊り場へと連行された。

to be continued

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