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欲しがりカレシのキスの場所 津軽3話

津軽
······

サトコ
「あ、あの···!」

庁内に戻るなり、津軽さんに捕獲されてしまった。
私の手には買ったばかりのブラが入った紙袋が提げられている。

サトコ
「さ、さっきのことでしたら、謝りますから!騙すような真似をして···」

津軽
うるさい

サトコ
「!」

階段の踊り場で追い込まれた。
ドンッと顔の真横に手を置かれる。

(か、壁ドン!?)

津軽
ねえ、答えて

サトコ
「な、何をでしょうか···」

津軽
何で真っ昼間から下着なんて買ってんの

サトコ
「!」

(つ、つけられてたー!?)

サトコ
「ナ、ナンの話デショウカ?」

津軽
もしかしてさ···

津軽さんが、その唇を軽く舐めるのがわかった。
小さく喉が動くのも分かる。

(津軽さん···?)

まるで人が緊張するときの仕草。
けれど、ここで緊張するわけもない。

サトコ
「あの···?」

津軽
···男でもできた?

サトコ
「はぁ!?」

津軽
急に胸が大きくなったりして、そんなの揉む相手が···

サトコ
「デ、デリカシー···!!」

津軽
うぐっ

顔から火が出るとは、まさにこのこと。
一瞬で脳天まで熱くなり、頬の温度なんて分からないまま津軽さんの口を両手で塞いだ。

津軽
ふぁって、それひがいひゃんがえられないひゃん

サトコ
「人の手の中でしゃべらないでください!」

くすぐったさに手を外せば、物凄く不満そうな目で見られた。

津軽
ウサちゃんが俺のお口塞いだんでしょ。いやらしい

サトコ
「いやらしいって、どっちがですか!津軽さんの方が、も、揉む···っとか!」

津軽
じゃあ、これは何なわけ?

空いている方の指がブラウスのボタンの隙間にくっと掛けられ、慌てて胸を押さえた。

津軽
正直に言うまで帰さないよ

サトコ
「どうして、そんなに気にするんですか···」

例え本当に胸のサイズが変わったとしても、津軽さんに気にされる理由が分からない。

津軽
それは···

サトコ
「それは···?」

津軽
君の胸って、左右の大きさが微妙に違うから···

サトコ
「セ、セクハラー!」

津軽
ぐっ

また津軽さんの口を全力で塞ぐ羽目になる。

(顔の良さとデリカシーを引きかえに生まれてきたの?)

津軽
······

サトコ
「ちょー!湿った吐息吹きかけないでください!」

津軽
いいから。さっさと質問に答えなよ

私の手を退かした津軽さんは相変わらず壁ドン体勢のまま見下ろしてくる。

(誤魔化して黙ってる方が面倒なことになりそう···)

これ以上頭や頬に血を上らせるのは精神的にも身体的にも良くない気がして観念した。

サトコ
「男なんてできてません」
「実は今日、海外の下着を着けてきてしまって···」

津軽
ん?だから?

サトコ
「だから、パッドがすごく厚くて!こんなふうになってるんです!」

(こうなったら思い知るがいい!女性の苦労を!)

破れかぶれ的な気持ちになり、ジャケットのボタンを外してバンッと胸を見せた。

津軽
つまりそれ、ニセモノ···

サトコ
「も、盛ってるだけです!」

津軽
···ぶっ

私の胸元をジッと見た津軽さんが噴き出すと同時に大笑いする。

サトコ
「ひ、ひどっ!だから、津軽さんには言いたくなかったんですよ!」

津軽
だって···底上げブラって···あはは!

お腹を抱えるほどに笑っているので、壁ドンは解除された。
それでも目の前にいるので逃げられない。

津軽
いや、そうだよな。そんなちょっとやそっと揉んだぐらいで育つわけ···
まあ、ちょっとどころじゃない男が出来たのかと思っちゃったけど
はー···笑った···

サトコ
「目尻に涙を浮かべるほど笑わなくても!」
「結局、そうやって私を笑いたいだけなんじゃないですか···」

津軽
注目を集めるウサちゃんが悪いんだよ

サトコ
「え?」

ひとしきり笑った津軽さんが腕を組んで視線を投げてくる。
責めるような···けれど、それだけではない物言いたげな瞳に貫かれた。

津軽
ほら、さっさと着替えといで

サトコ
「え、誰のせいで着替えられてないと思ってるんですか?」

津軽
ウサちゃんはもう少し心の声をしまっとく訓練をした方がいいよ?

唇を縫う真似をしてから、津軽さんは私のジャケットの前のボタンを閉めた。

津軽
はい

目の前に差し出される手。

サトコ
「?」
「すみません、お手とかはちょっと···百瀬さんみたいな忠犬になる気はないので···」

津軽
馬鹿なこと言ってないで、さっさと手を取りなよ
隠してあげるって言ってんの

サトコ
「隠す?」

津軽
俺と一緒に歩いてれば、皆、俺の顔しか見ないでしょ

サトコ
「······」

どうやら更衣室まで連れて行ってくれると言いたいらしい。

(そりゃ津軽さんといれば、注目されるのは津軽さんだろうけど)
(何となく、腹が立つ···)

津軽
それとも、ここで俺が着けてあげようか?

サトコ
「結構です!というか、セクハラですからね!全部!」

津軽
そっかー···盛ブラで誘惑されて、セクハラされたのか、俺···

サトコ
「なっ···!」

津軽
今は逆セクハラもあるからね~

サトコ
「ば、ばっ···」

バカ!と叫びたいところを、上司という名のもとに何とか耐える。

(落ち着いて···津軽さんの言うことを真に受けたらいけないって、何度繰り返したか···)

津軽
ああ、そうだ

私の手を勝手につかんで歩き出そうとした津軽さんがふと立ち止まった。

津軽
君の選んだ色、俺も結構好きかも

サトコ
「!?」

(何で色まで知ってるの!?)

サトコ
「ど、どこから···っ」

津軽
尾行にも視線にも気付かないなんて、公安学校で何勉強してきたんだろうね?
このままだと津軽班落第しちゃうよ?

サトコ
「···っ」

(下着の話から刑事の能力の話にするなんて、ずるい!)

津軽
それから今夜、ご飯やり直しね

サトコ
「え?」

津軽
昼のあれ、味なんてわかんなかったでしょ

(味のことを津軽さんにとやかく言われたくない···)
(というか、1日に二度も一緒にご飯食べるんだ···)

今日は午前中だけでどっと疲れたので、早く帰りたかったのに。
そうは問屋が卸さないー-もとい、津軽さんが許さなかった。

サトコ
「ここもまた随分とお洒落なお店で···」

津軽
和風創作料理だけど、美味しいんだって

サトコ
「また交通課からの情報ですか?」

津軽
んーん、刑事課の女の子

(やっぱり女性経由の情報···)
(嫌だな、そういうのいちいち気にしちゃうの)

実はこんな関係でも、私は津軽さんが好きで。
今日1日のことを振り返れば、一方的に騒いで申し訳なかった気持ちにもなってくる。

サトコ
「あの、今日は···」

津軽
ん?

サトコ
「ばたばたしてましたけど、ランチ、嬉しかったです」

津軽
え···あ、うん···

津軽さんは中途半端に箸を口に入れたまま、ぽかんとこちらを見ている。

(今さら何をって思われてるかな···)

サトコ
「夕食もありがとうございます。すごく美味しいです!」

津軽
君さ···

ゆっくりと津軽さんが箸で私を指差す。

津軽
つまりそれは、次は俺が好きなものを選んでいいってこと?

サトコ
「!?」

津軽さんの箸が指しているのは、間違いなく私のシャツの下。

サトコ
「な、なんでそういう話になるんですかー!」

津軽
そういう話だろ!?

サトコ
「違います!」

(ほんと津軽さんで、意味分からない!)

でもやっぱり···一緒に食べるご飯は美味しくて嬉しくて、彼のことも好きで。
恋愛バカは本当に、どうしようもない。

Happy End

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