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欲しがりカレシのキスの場所 颯馬1話

美容師
「当店は初めてですか?」

颯馬さんとのデート当日、予約していた美容院にやって来た。

サトコ
「このあと予定があるので、トリートメントとセットだけお願いします」

美容師
「かしこまりました」

(デート前の女磨き···)
(これくらいの贅沢、たまにはいいよね)

美容師
「お客様、だいぶ毛先が痛んでますね。トリートメントは久しぶりですか?」

サトコ
「あ···はい···」

早速指摘されてしまい、思わず肩身が狭くなる。

(ケアをサボってたことがバレバレ···)
(このところ本当に仕事が忙しー)
(いや、仕事を言い訳にしてちゃいけない···!)

鳴子にもそう言われたばかりだ。

美容師
「全体に毛先をカットした方がいいかもしれませんねぇ」

サトコ
「そうですか···」

美容師
「毛先のカットだけならお時間もそうかかりませんけど、どうします?」

(カットは予想外だけど、このあと颯馬さんに会うんだし···)
(そもそも女子力UPを目指して予約したんだし!)

サトコ
「じゃあ、毛先カットでお願いします」

美容師
「かしこまりました」

(つやつやサラサラの髪で、颯馬さんに会いに行こう!)

美容師
「お待たせ致しました」

ケアが終わり、合わせ鏡で後ろから全体の様子を見せてくれる。

美容師
「痛んだ部分をカットしたので、毛先までツヤツヤになりましたよ」

サトコ
「はい···!」

(本当につやっつや!)
(ふんわりと香る柑橘系の香りもいい感じ···だけど······ん?)

艶と香りに気を取られていた私は、正面を見て思わず息を飲んだ。

(ま、前髪···どこ行った!!?)

(どうしよう、これからデートなのに···)

『毛先カット』では済まされないレベルで短く切られてしまった前髪。
美容院を出た私は、街のショーウインドウに映る自分の姿に改めて愕然とする。

(美容師さんは “オシャレ” だって言うけど···)
(前髪ぱっつんヘアなんて、凡人の私には高度過ぎるよ)

というより、まるで小学生の女児のようだ。

(無理···)
(こんな顔が丸見えなの···落ち着かない···!)

短すぎる前髪を押さえながら、近くの量販店に駆け込んだ。

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(これでどうにか誤魔化せそう···?)

慌てて買ったヘアバンドで、なんとか “アレンジヘア風” に仕立てた。
とはいえ、短い前髪を無理やり上から押さえ、少しでも長く見せているに過ぎない。

(今日はこれでなんとか乗り切れたとしても、明日からはどうしよう)
(このスタイルで仕事に行くわけにもいかないし···)

サトコ
「はぁ···」

ため息をついている間に、颯馬さんとの待ち合わせの時間が近付いていた。

(もう行かなきゃ!)
(颯馬さん、気付くかな?)
(スルーしてくれるといいんだけど···)

即席アレンジヘアの前髪を引っ張りながら、待ち合わせ場所へと向かった。

サトコ
「お待たせしました···!」

颯馬
私も今来たところですよ

約束の時間の少し前に着いたものの、颯馬さんの方が先に来ていた。

颯馬
今日はいつもと髪型が違うんですね

サトコ
「あ···」

颯馬さんはキラキラと輝くように微笑んでいる。

(さすが颯馬さん···気付かないわけはないよね)
(できればスルーしてほしかったけど···)

サトコ
「たまにはヘアバンドとか使ってみるのもいいかなーって···」

颯馬
お似合いですよ

サトコ
「···ありがとうございます」

褒めてはもらえたものの、素直に喜べない。

(普段なら髪型の変化に即気付いてくれるのはすごく嬉しいことなんだけどな···)

今日に限っては『デキる彼氏』であることが辛い。

(鈍感な男性が羨ましいって思ったの初めてかも)

颯馬
さて、今日はどうしましょうか

サトコ
「そうですね···どうしましょう···」

髪型のことが気になって、正直デートに身が入らない。

颯馬
買い物でもしますか?

サトコ
「買い物ですか?」

颯馬
髪型を変えた時って、新しい服が欲しくなったりしませんか?

サトコ
「え?」

颯馬
今日の貴女にお似合いの服を探すのもいいかと

(すごい···颯馬さん、私よりずっと女子力高いんじゃ)
(というより、髪型を変えた彼女にこんなこと言えるなんて、彼氏としてデキすぎ!)

サトコ
「買い物、したいです···!」

颯馬さんの自然な気遣いが嬉しくて、沈んでいた気持ちが一気に上がった。

颯馬
これなんかどうですか?

一緒に服を選んでくれる颯馬さんが、フリフリのワンピースを手に取った。

サトコ
「···私にはちょっと可愛すぎかと」

颯馬
そんなことはないですが、今日のサトコにはこっちかな

今度はすっきりとしたシャツワンピースを手に取って私に当てる颯馬さん。

颯馬
うん、いいですね

サトコ
「はい。ラフだけどきちんと感もあって···これいいかもです」

颯馬
フリフリな貴女も可愛いと思いますが

サトコ
「うーん···でも今日はなんとなくこっちの気分です」

颯馬
そうですか。いいと思いますよ

サトコ
「じゃあ、これにします!」

にっこりと頷き、シャツカラーの方のワンピースを買うことにした。

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颯馬
色々と買いましたね

サトコ
「つい買いすぎちゃいました···!」

買い物を終え、カフェでひと休みすることに。
服を買ったあとに雑貨屋なども巡り、あれこれと買い込んでしまった。

(でも気分はスッキリ!)

颯馬
なんだか生き生きしてますね

サトコ
「颯馬さんと一緒に服を選んだりするの、久しぶりで楽しくて」

颯馬
次のデートの時は、ぜひあのワンピースで

サトコ
「はい、そうします···!」
「でも、次のお給料日までちょっと節約しないとです」

颯馬
じゃあ、俺の家で過ごす時間を増やせばいい

サトコ
「え···?」

颯馬
その分、光熱費を抑えられますよ?

(そ、それはそうだけど···)
(誘い方が変化球過ぎて反応に困る···)

颯馬
こちらはいつでも大歓迎ですから

サトコ
「はい···ありがとうございます」

悪戯っぽさを漂わせた微笑みに、少し照れながら微笑み返した。

サトコ
「やっぱりストレス解消には買い物が一番です」

颯馬
ストレスが溜まっていたんですか?

サトコ
「え、あ···」

自分で言っておいてハッとした。

(そういえば髪型のこと、すっかり忘れてた···)
(ストレスを感じていたことは覚えているのに)

そう思いながら、ふと窓に目を向ける。
そこには確かに、ヘアバンドをしたいつもと違う髪型の私が映っている。

颯馬
どうしました?

サトコ
「いえ···何でもないです」

誤魔化すように笑いながら、ヘアバンドで押さえた前髪に触れる。
それはもちろん、相変わらず短すぎる。

(ストレスの原因だったはずの髪型のことを忘れてるなんて···)
(それだけ颯馬さんとのデートが楽しいってことだよね)

改めて『デキる彼氏』の威力を思い知らされた気分だ。

(今日に限ってはそれが辛いと思ってたけど···)
(いつの間にかこんな心地いい気分にさせられてしまうなんて、颯馬さんはさすがだな)

颯馬
なんだか嬉しそうですね?

サトコ
「颯馬さんとのデートはやっぱり楽しいなぁ、って思って」

颯馬
急にどうしたんです?

サトコ
「なんか、ふと思っただけです」

照れ隠しに微笑むと、颯馬さんもフッと優しく頬を緩めた。

颯馬
このあとはどうしましょうか

サトコ
「そうですねぇ···ご飯にはまだ少し早いですし···」

颯馬
じゃあ、今度は俺の買い物に付き合ってくれる?

サトコ
「もちろんいいですけど、何を買うんですか?」

颯馬
ちょっと気になっているものがありまして

颯馬さんは意味ありげに含み笑いを浮かべた。

(気になってるものって、なんだろう···?)

to be continued

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