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欲しがりカレシのキスの場所 黒澤カレ目線

今日の天気は晴れ。
特に外で活動するような任務もない。
それはもちろん、サトコさんの予定の話だ。

(昨日買った靴を履いてくるとしたら今日···)
(プライベートで慣らしてからって可能性もあるけど、そんなに休日もないし)

サトコ
「おはようございます!」

朝に相応しい笑顔で彼女は登庁してきた。
足元には、ぴっかぴかの真新しい靴を履いて。

(ビンゴ。っていうか分かりやす過ぎるんだよなぁ)
(でも、まぁ···)

いつも以上に笑顔の眩しい彼女の頬は、いつもよりも血色がいい。
真っ先に津軽さんに掴まっているのは気に入らないけど、
それでも、ころころと表情を変えながら話している姿はやはり可愛かった。

(オレの彼女可愛い···)
(なんて、随分おめでたいなぁ、オレも)
(まぁ、彼女が嬉しそうなことはいいことなんだけど)
(タイミング見つけて、『靴可愛いですね』の一言くらい伝えた方がいいかな?)

その一言に、また律儀に笑顔を零す彼女を想像してしまう。
ふっと頬が緩みそうになりつつ、今日の業務に取り掛かった。

(タイミングって、こんなにないもの···?)

朝の津軽さんから始まり、歩さん、周介さんと彼女の隣には常に誰かがいた。
特に周介さんなんて、給湯室から楽し気な会話が聞こえてきた。

(さすが周介さん···靴のこともさらっと褒めて···)
(どうして彼女は、こうも自分以外の男と2人きりになるんだろう)

黒澤
困ったなぁ···

今も津軽さんのお遣いという名のパシリに奔走している。
津軽さんもおそらく新品の靴を見て、気まぐれに彼女を揶揄って遊んでいるのだろう。

(上司だからって、職権乱用では?)

じっと津軽さんを見ていたら、はたと目が合う。

津軽
······

なぜか意味深にふっと笑みを浮かべる彼に、持っていた資料を握り潰しそうだった。

(あの人とやり合ってもメリットないから···)
(そういえば昼に買って来たスイーツがあったな。そうだ、あれ食べよう)

気を紛らわせるように、冷蔵庫に入れていたコンビニスイーツを取りに向かう。

(甘いものでも食べればこの妙なモヤモヤも忘れるはず)
(大体、靴のことを気付いてほしいなら真っ先にオレのところに来ればいいのに···)

黒澤
あれ?

冷蔵庫に入れていたはずのスイーツがない。
何度扉を開閉しても、中身は変わらなかった。

黒澤
ないー---!!

加賀
テメェ、冷蔵庫壊れるだろうが

黒澤
いやだって、オレの楽しみにしていたスイーツが···!

加賀
あぁ?

黒澤
え···

加賀さんの手元から放り投げられたカップがカコン、と音を立ててゴミ箱に入る。
ゴミ箱の中を恐る恐る覗き込めば、間違いなくオレが買ったスイーツの残骸だった。

黒澤
こここ、これー!これオレが買って来たスイーツだったんですけど!
勝手に人のもの食べないでくださいよー!

加賀
うるせぇ!ちゃんと名前書いとかないテメェが悪いんだろ

黒澤
そんなぁ···!

ふん、と踵を返して行ってしまう加賀さんは取り付く島もなかった。
いや、あの人が弁償してくれるなんて思ってもいないけれど。

(でも、そうか。名前か···)

もし、彼女に自分の名前を書けたら。
そうしたら、たとえオレが目を離したとしてもちゃんと戻ってきてくれるだろうか。

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午後を過ぎたころから彼女の歩き方に違和感を覚えていた。
そっと資料を運ぶ彼女の後をつけると、案の定彼女は立ち止まった。

(本当に、目が離せない人だなぁ···)

放っておいても、これくらいなら一人でどうとでも出来るだろう。
しかし、ここまで彼女をお預けにされていたオレは半ば引きずるように彼女を連れ去った。

黒澤
オレに隠してることありますよね!

サトコ
「いや、だから隠してることなんて···」

(そうだ。そもそも彼女が悪い。せっかく靴を褒める言葉だって考えてたのに)
(ずっと誰かといて、オレに言わせなかったせいだ)
(じゃなかったら、今日ほど彼女から目が離せなかった日はない)

彼女んに隠し事なんてできない、と分かっている。
それでも、ずっと朝から溜め込んでいたものが次から次へと口から零れた。

黒澤
公安課のスーパールーキー黒澤透から逃げようたって、地の果てまで追って···

サトコ
「ストーップ!」

黒澤
ぐぅ···!

ネクタイを突然引っ掴まれ、強制的に口を封じられる。

(いや、正確には首だけど···)

誤解です、という彼女の言い分を知っていないわけがなかった。
そんな彼女を丸め込み、結局手当てをさせてくれるのもまた可愛い。
スカートを抑えながら顔を赤くする彼女を見ると、何だかイケナイことをしている気分だ。

(会議室って場所がまた何とも···)
(いや、さすがにここで襲ったら嫌われかねないし、抑えないと···)

昼間は結局、手当てするだけで終わってしまった。
仕事も早く終わったし、と彼女の家に行けばいい匂いに気持ちが和む。

黒澤
やっぱり傷痛みます?

サトコ
「ううん。靴を脱いでるからずいぶん痛くなくなったよ」

もちろん傷のことは気に掛けているのだが、なんせご飯が美味しい。
質問しつつもバクバクと食べれば、彼女から訝し気な気配が伝わって来た。

(おっと、これはご飯目当てだと思われてるな···)
(透ったらうっかり★)

黒澤
サトコさんのご飯、本当に美味しいです

サトコ
「ありがとう」

あざとい笑みに、首を小さく傾げてみせるが、彼女はにこっと笑うだけだった。

(今までの相手にはこれで結構誤魔化せたんだけどなぁ)
(何で肝心の効いて欲しい相手には効力がないのか···)

せめても、と片付けをしようと手を挙げるが、それも結局一緒にやることになってしまった。

(まぁ、そういうサトコだから、好きなんだろうけど)

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泊ることを許してくれた彼女は、走り回った疲労のせいかすぐに眠ってしまった。
隣で横になりながら、暗闇に慣れてきた目で彼女の顔を見つめる。

(彼女は、キスの場所で意味が違うこと知ってるのかな?)

思い出すのは昼間、会議室で手当てをしていた時のこと。
彼女の足の甲へとキスしたのは、本当にウッカリだった。

(キスなんてするつもりなかったのに、自然と止まらなかったんだよなぁ···)

あの時の自分を思うと正常ではなかったような気がする。
ほぼ無意識くらいの気持ちでキスした場所が、その後ずっと気がかりだった。
キスをする場所によって意味が違う、という話を思い出したのはそれからすぐだ。

(足の甲へのキスは “ 隷属 ” )
(確かに彼女へのこの気持ちの重さは、隷属って言葉がぴったりかもしれない)

振り回しているようで、結局オレの方が振り回されている。
それは身体のずっと深いところで、彼女に支配されてしまっているからかもしれない。

(少し前のオレだったら、そんなのあり得ないって思うかもしれないけど)

黒澤
今なら、それでもいいや

笑ったり、傷ついたりする彼女を、傍で守りたい。
それを隷属というのなら、何が悪いというのだろう。

サトコ
「んん···?」

黒澤
何でもないですよ

サトコ
「んー···」

一瞬、目を覚ましかけた彼女の身体をぎゅっと抱き締める。
するとまたすぐに、彼女は腕の中で規則正しい寝息を立て始めた。
これほどまでに無防備な彼女が自分の腕の中に閉じ込められるのが心地いい。

(今だけは、彼女はオレのもので、オレも彼女だけのもの···)

暗闇の中でじっと彼女の温もりを、全身で感じる。
彼女を独占したい。隷属でも何でもしよう。

(だからサトコにもオレのことを独占して欲しいって)
(それくらいの我儘は許されてもいいんじゃないかと思うんだ)

夜は更けていく。
まるで、世界に2人だけのような静けさを湛えて。

Happy End

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